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言語学・ゲームの結末を求めて(その6) [宗教/哲学]


音韻論
音韻論

おんいんろん
phonology; phonemics

  

音声学的観察で確認した音声がどういう音韻的単位に該当し,そのような単位がいくつあり,いかなる体系・構造をなしており,いかなる機能を果しているかなどを研究する学問。音韻論的解釈には正確な音声学的観察が必要であり,逆に正しい音韻論的解釈により音声学的事実がよりよくみえてくることから,音声学と音韻論は補い合うものであるといえる。音韻的単位の最小のものは音素である。東京方言ではその音素が1つないし3つでモーラを形成し,モーラが1つないし3つで (音韻的) 音節を形成し,その音節 (連続) のうえにアクセント素がかぶさって形式の音形を構成している。音韻を音素の代りに使う人もいるが,音韻は以上の音韻的単位の総称としたほうがよい。この立場に立てば,音韻論 phonologyは音素論 phonemicsよりも広い概念で,少くともその他に音節構造論とアクセント論を含むことになる。音韻論にも,他の分野と同様,共時音韻論と史的音韻論 (音韻史) がある。また音声学と音韻論を総称して「音論」と呼ぶこともある。





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音韻論
おんいんろん

音韻は言語音声から意識された要素として抽出された最小の単位で,フォネーム phoneme の訳語として音素と同じ意味に用いられることが多い。音素は音声の最小単位たる単音に対応する分節音素と強弱や高低アクセントのように単音に対応しない超分節音素に分けられるが,このうち分節音素に限り音韻と呼ぶこともある。また中国では昔から,漢字の字音を構成する単位を音韻と称し,音韻学と呼ばれる言語音に関する学問が行われていた。
 音韻もしくは音素を分析する部門を音韻論という。この場合,ヨーロッパ系のものを音韻論 phonology,アメリカ系のものを音素論phonemics と区別することもある。
[ヨーロッパ系音韻論]  ヨーロッパ系の音韻論では1930年代よりプラハ言語学派の音韻理論が中心をなしていて,音素の設定と,音素の体系を扱っている。音素の設定は,ある言語において意味を区別する働きのある音声的相違すなわち音韻的対立に基づく。英語の pitcher[pitイト]〈投手〉と catcher[kずtイト]〈捕手〉という語の意味を区別しているのは[pi‐]と[kず‐]という音声部分である。したがって,これらは音韻的対立をなす。さらに[pi‐]であるが,pin[pin]〈ピン〉と bin[bin]〈貯蔵箱〉の対立から[p]と[b]という対立要素が取り出される。これらはより小さな連続的単位に分解できないから音素と認定される。
 音素の体系では音素を音声特徴に分解する。いま pen[pen]〈ペン〉と men[men]〈人々〉の対立から音素/m/(/ /は音素であることを示す記号)を認めた上で,音素/p//b//m/を構成している弁別的素性を調べてみると,/p/無声(〈こえ〉なし)・両唇・閉鎖・口音,/b/有声(〈こえ〉あり)・両唇・閉鎖・口音(鼻腔共鳴なし),/m/有声・両唇・閉鎖・鼻音(鼻腔共鳴あり)と分析される。これら両唇閉鎖音のうち,/p/と/b/の対立の根源は声帯振動による〈こえ〉があるかないかに帰着する。そこで〈こえ〉の標識をもつ/b/を有標項marked,もたない/p/を無標項 unmarked と呼ぶ。二つの音素がその弁別的素性を共有していて,ある素性の有無によってのみ区別される場合を N. S. トルベツコイは欠如的対立と名づけている。同じく鼻腔共鳴をもつ有標項の/m/と,もたない無標項の/b/も欠如的対立をなす。同様の関係が歯茎音の/t/‐/d/‐/n/と軟口蓋音の/k/‐/を/‐/ペ/の間にも成立する。そこで,〈こえ〉と鼻腔共鳴の標識により同一の調音点をもつ音素群を組み合わせると,図のような音素体系が取り出される。ただし,欠如的対立は位置によりその効力を失うことがある。/spin/〈つむぐ〉に対し*/sbin/(*は措定形であることを示す)という対立はないので,/s/音の後では/p/と/b/はこえの対立をなさない。これを中和 neutralization と称する。さらに R. ヤコブソンは弁別的素性を調音的でなく音響的特徴により記述しようと試みた。彼はスペクトログラムに現れる第1と第2フォルマントの距離の広いものを散音,狭いものを密音とし,第2フォルマントの位置が高いものを鋭音,低いものを鈍音と定め,さらにフォルマントが明確に現れるものを母音的,騒音の影をもつものを子音的と名づけている。そして,このような音響による弁別的素性の12の対立の集合を設定し,世界中の言語に現れるすべての音素は,これらの集合のうちいくつかの対立素性が組み合わさったものであると主張した。例えば,非円唇前舌高母音/i/は〈母音性・非子音性・散音性・鋭音性〉という素性の束と見なされる。いま/i/の含んでいる鋭音性を鈍音性に変えれば母音/u/が生じる。日本語の/u/はこれに非円唇の音響的特徴をなす非変音性が加わり具体的な母音[セ]となる。このように音素が音声として実現したものを異音という。
[アメリカ系音素論]  アメリカではアメリカ・インディアンの言語を調査するにあたり,異質の未開言語を表記するための客観的方法を確立する必要に迫られ,そこで音素の研究が推進された。音素論は,最小対立と,相補的分布の原則に立脚している。pill[phil](h は有気音であることを示す補助記号)〈丸薬〉と kill[khil]〈殺す〉という語の音声現象はいずれも[‐il]という同一の音声環境に立っていて,語頭の音声部分を置き換えると意味が変わってくる。この場合二つの語は最小対立 minimal pair contrast をなすとし,異なる音声部分[p]と[k]を置換することにより音素/p/と/k/が取り出される。また paper[pheipト]〈紙〉にあっては語頭の[ph]は有気音であるが,語中の[p]は無気音である。ここでは強勢母音[レi]をはさんで,前に立つ有気音[ph]とその後にくる無気音[p]は相補う位置に分布している。このように相補的分布 complementary distributionをなす類似した音声は同一音素/p/の位置異音と見なされる。また,強さや高さアクセントおよび音素と発話の結びつき方を表す連接のような超分節音にも音素としての機能を認めている。例えば,英語の名詞 increase/∩nkr∩ys/〈増加〉と動詞の increase/inkr∩ys/〈増加する〉や日本語の雨[aャme](ャ や ヤ は高低アクセントを示す補助記号)と蒜[aヤme]の対立。an aim/トn+eym/〈ある目的〉に見られる内部連接/+/などである。次に音素配列論では音素の結合を記述する。英語の語頭では play〈遊ぶ〉,pray〈祈る〉のように/pl‐//pr‐/という子音の結合は許されるのに,*/tl‐/*/sr‐/のような結合は存在しない。
[生成音韻論]  最近,研究が進展したものに生成音韻論 generative phonology がある。1960年代より N. チョムスキーは変形生成文法において,基底構造から変形規則により表層構造を派生させる方式を提唱してきた。このため音素なるものを否定し,基底表示を設定しておいて,これに音韻規則を適用して音声表示を導き出そうとしている。これにより語彙の派生関係やアクセントの位置を説明できるとしている。例えば divine〈神聖な〉の基底表示を/div ̄n/とし,二重母音化の規則により  ̄→ay に変えて[divayn]という形を生み出す。一方名詞化語尾‐ity の前では短母音化の規則により  ̄→i に変えて[diviniti]を派生させる。また有標性 markedness を利用し,舌先を用いる/t/を無標,舌先を用いない/p/と/k/を有標とし,口の前方で発する/p/と/t/を無標,後方で調音される/k/を有標と定め,有標の数が多いほど複雑であると考えた。したがって,子音では/t/が最も自然で,/p/と/k/はやや難易度が高いことになる。こうした分析の結果は幼児の言語習得や世界中の言語に見られる普遍的傾向に照らしてみる必要がある。⇒音声学∥言語学      小泉 保

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音韻論
音韻論 おんいんろん 言語学の分野のひとつで、個別言語においてもちいられる音声の機能を分析し記述することを目的とする。ある言語において、それぞれ機能がことなる音声的単位を「音素」または「音韻」とよぶ。ただし、アクセントやイントネーションなど複数の音声的単位にまたがってはたらく音声現象をふくめて「音韻」とよび、音韻からアクセントやイントネーションをのぞいたものを「音素」とよぶこともある。音素をあらわす記号は/をつかい、/k/、/a/のように表記される。

ある言語において、2つの音声の機能がことなる場合、その2つの音声はことなった音素に属する。2つの音声の機能がことなるとは、それらの音声が単語の意味を区別するのに役だつということである。たとえば、日本語で「蚊」[ka]という語は「歯」[ha]、「間」[ma]、「差」[sa]などとは別の語である。この区別をするのは[k]という子音なので、[k]は日本語の音素である。

また、「蚊」[ka]は「木」[ki]や「子」[ko]ともちがう語である。この区別をするのは[a]という母音なので、[a]も日本語の音素である。

ことなった調音の仕方をされる2つの音が、ある言語においては2つの音素であるが別の言語においては1つの音素とみなされることもある。たとえば、[r]という音と[l]という音は英語においてはちがった2つの音素であるが、日本語ではこの区別がなく、どちらも同じ音とみなされる。

また、日本語では[k]と[g]という2つの音声がもちいられるが、「かま」[kama]の[k]を[g]にとりかえて「がま」[gama]にすると意味がかわる。したがって、日本語では[k]と[g]はことなった音素に属することになる。

いっぽう、朝鮮語でも同じように[k]と[g]の音声がもちいられるが、母音と母音の間では[g]だけしかあらわれず、それ以外の場合は逆に[k]だけしかあらわれないので、この2つの音声をとりかえて、ちがった意味をもつ単語をつくることはできない。したがって、朝鮮語の[k]と[g]は同じ音素に属するとみなされる。

このような方法によって、各言語にどのような音素があるのかを決定し、それぞれの音素がどのような特徴によって区別されるのかを研究するのが、音韻論のもっとも重要な目的である。日本語の/k/と/g/を区別する音声的特徴は、音声をつくるときに声帯がふるえるかどうかという「有声性」であり、それ以外の特徴は2つの音声に共通である。この「有声性」や、[m] [n]などに共通の「鼻音性」など、音素の区別にかかわる音声的特徴を「弁別特徴」とよぶが、音素をさらに弁別特徴の集合としてとらえ、言語におけるもっとも小さな単位は音素ではなく弁別特徴だと主張する立場もある。

→ 音声学:言語学

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音素
モーラ
モーラ

モーラ
mora

  

モラともいう。ラテン語韻律学において,1短音節の長さに相当する時間の単位をさす。1長音節は1短音節の2倍の長さをもつ。転じて,おもに日本語のかな1字 (子音+短母音) に相当する時間的長さの単位をさすのに用いられる。ただし,拗音 (子音+半母音+短母音) はかなでキャ,ショのように書くが,やはり1モーラである。「拍」という学者もある。日本語 (東京方言など) は,この等時間的単位が和歌や俳句を数える単位となっている。またアクセントにおいても大切な役割を果している。これと,(音韻的) 音節は別の概念である。[kona]/kona/ (粉) ,[ko:]/koo/ (甲) ,[koN]/koN/ (紺) において,音節は,「粉」が2音節,他は1音節であるが,モーラは,いずれも2モーラである。撥音 (ン) ,促音 (ッ) ,長音 (ー) がそれ自身で1モーラをなすのが日本語の特徴であるが,日本語のなかでも方言により,モーラの認められないものもある。





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音節
音節

おんせつ
syllable

  

それ自身のなかには切れ目がなく,その前後に切れ目の認められる単音または単音連続をいう。構造上,子音で終るものを閉音節,母音で終るものを開音節という。英語の[d]「犬」は前者,日本語の[me]「目」は後者の例。一般に,1つの母音を中心にその前 (後) に子音がついた形をなすが,しかし,音節の規定は,結局音韻論的観点が必要となってくる性質のものであるため,その音声学的定義は困難で,学者によりさまざまである。 O.イェスペルセンは「きこえ」の相対的頂点の数に音節の数を求め,ソシュールは呼気の通路の「ひらき」が閉鎖に向うものを内破音,開放に向うものを外破音とし,内破音から外破音に移るところに音節の切れ目を求めた。 M.グラモンは「ひらき」のほかに発音の際の諸器官の緊張の増加 (漸強音) ,減少 (漸弱音) の観点を持込み,漸弱音から漸強音へ移るところに音節の切れ目を求めるとともに,漸強性と「ひらき」の増大,漸弱性と「ひらき」の減少がそれぞれ一致する音節を「音声学的音節」,一致しないが現実の言語に見出される音節を「音韻論的音節」と呼んだ。服部四郎は,モーラとは別に各言語において一定の構造をもつ「音韻的音節」と,実際の発話に生じる「音声的音節」とを区別した。東京方言の「オカアサン」は5モーラから成り,[o|ka:|saN]/'o|kaa|saN/と音節が切れ,音声的3音節,音韻的3音節である。一方,/hasi/「箸」は2モーラから成り,音韻的2音節であるが,音声的1音節に発音されることもあるとする。なお,日本ではこのモーラをさして「音節」と呼ぶ人も多い。





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音節
おんせつ syllable

音節は連続した音声における最小のまとまりある単位で,語をゆっくり区切って発音するとき音節の単位に分けられる。音節の構成方式は言語により異なるが,代表的なものを以下に紹介する。まず音声的音節であるが,これは音声連続の中でのきこえ sonority の頂の数が音節数に一致するとの説である。いま音声をきこえの大きさにより4群に段階づけすると,(1)無声閉鎖音[p,t,k],(2)有声閉鎖音[b,d,を],無声と有声の摩擦音[f,ド,s,イ,v,z,ゥ],(3)鼻音[m,n,ペ],流音[l,r],半母音[w,j],(4)母音に分類できる。いま英語の〈ジャックは小さな鳥を捕らえた〉という文を構成する音声にきこえの段階を割り当て,これを,前記の数字を用いてグラフに改めると,図1のように六つのきこえの山ができる。したがってこの文は6音節よりなるとみなされる。きこえ説では,little/3 4 1 3/という語は4と3の頂が現れるので2音節と評価される。しかし spa[spaビ]/2 1 4/〈温泉〉では,2と4が頂を形成し2音節とみなされるおそれが出てくる。そこでフランスの言語学者グラモン M.Grammont(1866‐1947)は調音器官の緊張が[s]から[p]へと高まっていくと説明し,緊張の上昇と下降の山を音節と解釈している。
 次にプロミネンス prominence の説では,音の高さ,強さ,長さも考慮に入れる。例えば,hiddenaims〈隠されたねらい〉と hid names〈名前を隠した〉はいずれも音声としては[hidneimz]であるが,hidden[hidn]の[n]の方が names[neimz]の[n]よりもプロミネンスが高いので音節を構成する成節音とされる。
 ほかにステットソン R. H. Stetson の胸拍説がある。これは呼気のとき胸の肋間筋がアコーディオンのように波打ちながら肺から息を流し出す運動を胸拍と称し,胸拍のリズムに音節を対応させている。
 また,日本語では音節は音の長さ(拍)により決定される。単音をミリセカンド(100分の1秒)単位で測れば,〈ハカ〉の〈カ〉[ka]は9+8の長さをもつが,〈ハッカ〉の〈ッカ〉[kka]は16+9+8で,促音〈ッ〉[k]の長さは次の〈カ〉[ka]に匹敵する。同じことが撥音〈ン〉と長母音についてもあてはまる。ここに促音や撥音および長母音で引きのばされた母音を1拍と数える根拠がある。
 最後に,音素的音節では音素の占める位置によって音節の構造が分析される。いま子音を C,母音を V,半母音を S とすれば,英語の cat[kずet]〈ネコ〉は CVC の構造をもち,V が音節の中核をなす。音節は図2のように構造的にまず開始部と中核部に分かれ,中核部が頂部と結尾部に割れるとされている。そして母音が頂部に立つのが普通である。英語では開始部に子音が三つまでくることが許される。例えば,strip〈はぐ〉は CCCVC。このように C と V の組合せには制約がある。日本語で音節(拍)を形成するものに V,CV,CSV,M の四つのタイプがある。M はモーラ音素と呼ばれ促音音素/㊨/と撥音音素/℡/を含む。例えば,オンセーガク[onseビペakセ]/㊧℡seegaku/は,V・M・CV・V・CV・CV であるから6拍に数えられる。なおCSV はキャ/kya/のような拗音の構造を指す。
                         小泉 保

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音節
おんせつ syllable

音節は連続した音声における最小のまとまりある単位で,語をゆっくり区切って発音するとき音節の単位に分けられる。音節の構成方式は言語により異なるが,代表的なものを以下に紹介する。まず音声的音節であるが,これは音声連続の中でのきこえ sonority の頂の数が音節数に一致するとの説である。いま音声をきこえの大きさにより4群に段階づけすると,(1)無声閉鎖音[p,t,k],(2)有声閉鎖音[b,d,を],無声と有声の摩擦音[f,ド,s,イ,v,z,ゥ],(3)鼻音[m,n,ペ],流音[l,r],半母音[w,j],(4)母音に分類できる。いま英語の〈ジャックは小さな鳥を捕らえた〉という文を構成する音声にきこえの段階を割り当て,これを,前記の数字を用いてグラフに改めると,図1のように六つのきこえの山ができる。したがってこの文は6音節よりなるとみなされる。きこえ説では,little/3 4 1 3/という語は4と3の頂が現れるので2音節と評価される。しかし spa[spaビ]/2 1 4/〈温泉〉では,2と4が頂を形成し2音節とみなされるおそれが出てくる。そこでフランスの言語学者グラモン M.Grammont(1866‐1947)は調音器官の緊張が[s]から[p]へと高まっていくと説明し,緊張の上昇と下降の山を音節と解釈している。
 次にプロミネンス prominence の説では,音の高さ,強さ,長さも考慮に入れる。例えば,hiddenaims〈隠されたねらい〉と hid names〈名前を隠した〉はいずれも音声としては[hidneimz]であるが,hidden[hidn]の[n]の方が names[neimz]の[n]よりもプロミネンスが高いので音節を構成する成節音とされる。
 ほかにステットソン R. H. Stetson の胸拍説がある。これは呼気のとき胸の肋間筋がアコーディオンのように波打ちながら肺から息を流し出す運動を胸拍と称し,胸拍のリズムに音節を対応させている。
 また,日本語では音節は音の長さ(拍)により決定される。単音をミリセカンド(100分の1秒)単位で測れば,〈ハカ〉の〈カ〉[ka]は9+8の長さをもつが,〈ハッカ〉の〈ッカ〉[kka]は16+9+8で,促音〈ッ〉[k]の長さは次の〈カ〉[ka]に匹敵する。同じことが撥音〈ン〉と長母音についてもあてはまる。ここに促音や撥音および長母音で引きのばされた母音を1拍と数える根拠がある。
 最後に,音素的音節では音素の占める位置によって音節の構造が分析される。いま子音を C,母音を V,半母音を S とすれば,英語の cat[kずet]〈ネコ〉は CVC の構造をもち,V が音節の中核をなす。音節は図2のように構造的にまず開始部と中核部に分かれ,中核部が頂部と結尾部に割れるとされている。そして母音が頂部に立つのが普通である。英語では開始部に子音が三つまでくることが許される。例えば,strip〈はぐ〉は CCCVC。このように C と V の組合せには制約がある。日本語で音節(拍)を形成するものに V,CV,CSV,M の四つのタイプがある。M はモーラ音素と呼ばれ促音音素/㊨/と撥音音素/℡/を含む。例えば,オンセーガク[onseビペakセ]/㊧℡seegaku/は,V・M・CV・V・CV・CV であるから6拍に数えられる。なおCSV はキャ/kya/のような拗音の構造を指す。
                         小泉 保

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音節
音節 おんせつ Syllable 発音の基本的な単位。たとえば「さ・よ・う・な・ら」という言葉を不自然でないように短くくぎると、「sa・yo・u・na・ra」となるが、そのひとつひとつが音節である。日本語の音節は基本的に母音1つか、子音+母音という構成になっている。また、仮名文字は1字が1つの音節になる。

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O.イェスペルセン
イェスペルセン

イェスペルセン
Jespersen,(Jens) Otto (Harry)

[生] 1860.7.16. ラーネルス
[没] 1943.4.30. ロスキレ


デンマークの言語学者,英語学者。コペンハーゲン大学で V.L.P.トムセンらの指導を受ける。 1891年英語の格の研究で学位を得て,93年同大学の英語教授となる。外国語教育は日常用語から始めるべきことを主張。音声学,言語理論,英語史,国際語運動における貢献は高く評価されている。『音声学教本』 Lehrbuch der Phonetik (1904) は,すぐれた一般音声学書として著名。早くからダーウィンの進化論の影響を受け,それまでの言語退化説に反対し,『言語の発達』 Progress in Language (1894) で,言語は進化するものであり,言語変化は効率のよい方向に進むものであることを主張した。7巻から成る『現代英文法』 Modern English Grammar on Historical Principles (1909~49) は,上の考えを英語史において実証したもので,歴史的研究こそが言語の科学的研究であるとの立場に立って書かれたものである。『英文法精義』 Essentials of English Grammar (33) はその一部分の要約。彼の言語観を集大成したものが『言語,その本質,発達と起源』 Language: its Nature,Development and Origin (22) および『文法の原理』 Philosophy of Grammar (24) である。その他の著書多数。日本の英語学に与えた影響も大きい。





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イェスペルセン 1860‐1943
Otto Jespersen

デンマークの英語学者,言語学者。法律学からロマンス語研究に転じ,のちイギリスの言語学者H. スウィートの影響をうけ,英語学を専攻。1893‐1925年,母校コペンハーゲン大学の英語・英文学の教授をつとめた。1899年よりデンマーク王立学士会員。関心の幅は広く,音声学,英文法,文法理論,言語学,外国語教授法,国際語に及ぶ。主著の一つ《言語――その本質・発達・起源》(1922)は,英語が他言語に比べていっそう規則的で簡便であるからもっともすぐれている,と論じ,言語の起源は〈歌うこと〉からであるとした。大著《近代英文典 A Modern English Grammar》7巻(1909‐49)は,第1巻が音声と綴字による,また第2~7巻は文法による近代英語史で,広範囲な歴史上のデータに基づいて文法を合理的に整理した英文法史上画期的な著作である。これは長い間,英文法書のスタンダードとして学校文法に大きな影響を与えている。また,《文法の原理 Philosophy ofGrammar》(1924)は文法の理論的面を扱っている。彼は記述主導型の伝統的言語学から,理論主導型の新言語学へと移る過渡期の橋渡しをした学者で,その理論は特に《統語論――理論と分析 Analytic Syntax》(1937)で展開されている。なお,1928年にはノビアル Novial と呼ぶ人工言語を考案し,新しい国際語(国際共通語)として提唱している。                   三宅 鴻

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イェスペルセン,O.
I プロローグ

イェスペルセン Otto Jespersen 1860~1943 デンマークの英語学者、言語学者。音声学、英文法、言語理論、外国語教授法、国際語などの幅広い分野で重要な業績をのこした。日本の英語学に対しても、大きな影響をあたえている。

コペンハーゲン大学で最初法律をまなんだ後、ロマンス語の研究をするようになり、最終的にはイギリスの音声学者スウィートの著書を読んだことによって、英語学を専門としてえらぶことになった。1893~1925年コペンハーゲン大学の英語学の教授をつとめた。

II 言語の進化論

イェスペルセンは、「英語の発達と構造」(1905)や「言語?その本質・発達・起源」(1922)において、言語の進歩とは、文法的な働きをする形態が単純になることであると主張し、形態的に単純で規則的な特徴をしめす英語はすぐれた言語であるとした。また、言語の起源についての従来の学説を分類し、言語はうたうことからはじまったという説をとなえた。7巻にのぼる大著「近代英文典」(1909~49)では、英語の音声や文法を合理的に整理しており、のちの英文法の教科書に大きな影響をあたえた。「文法の原理」(1924)では、独自の文法用語や概念をもちいながら、文法の理論的側面を論じている。イェスペルセンはまた1928年に、エスペラントやイードのような国際語として、ノビアルという人工言語を考案している。

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M.グラモン
グラモン

グラモン
Grammont,Maurice

[生] 1866. ダンプリシャール
[没] 1946. モンペリエ

  

フランスの言語学者,音声学者。モンペリエ大学教授をつとめた。比較言語学,音声学,韻律論を研究。史的音韻論における一般的傾向の発見に努め,特に異化,同化,音位転換の研究に新見解を発表。主著に『インド=ヨーロッパ諸語およびロマンス諸語における子音の異化』 La dissimilation consonantique dans les langues indo-europennes et dans les langues romanes (1895,博士論文) ,『フランス語の詩法』 Le vers franais (1904) ,『音韻論提要』 Trait de phontique (33) などがある。





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異化
異化

いか
dissimilation

  

同一の,または共通点をもった,すなわち類似した2つの音素が,互いに隣接するか近い位置にある場合,その一方がより共通点の少い別の音素に変化する歴史的現象をさす。同化の反対。同一 (または類似) の要素を繰返し調音する労力を避けようとして生じる。ラテン語 per_egr_nus「畑 agerを通って行く人」→ロマンス祖語 * pel_egr_nus「異邦人」のようにr-r→l-rと先行音素が変るのを「逆行異化」 regressive dis.,ラテン語 ar_bor_em→スペイン語 ar_bol_「木」のように,r-r→r-lと後続音素が変るのを「順行異化」 progressive dis.という。タビビト→タビトのように一方の音節が脱落すること (「重音脱落」 haplology) もある。





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異化
いか

一般に同化に対する語。生物学(〈同化作用〉の項目を参照),心理学でもこう呼ばれる現象があるが,ここでは文芸的な術語だけを扱う。本来はブレヒトが演劇で用いた〈異化効果Verfremdungseffekt〉に由来する。英語でalienation,フランス語で distanciation,中国語では間離化,陌生化とも訳されているが,語義からいえば作品の対象をきわだたせ,異様(常)にみせる手続をいう。文学的な技法としては古くから用いられており,ブレヒトはロシア・フォルマリズムの用語からもヒントを得たという。1936年にブレヒトははじめてこの術語を用いたが,それが彼の演劇の中核的技法となるにしたがって,自身によって何度も定義が試みられた。あるできごとや人物から,わかりきった,あたり前に思われる部分を取り除き,それに対する驚きや好奇心を生みだす,というのが基本的な定義であるが,先入見によって〈既知〉と思っていたものを〈未知〉のものに変える手続は,弁証法的に,その対象を真に〈認識〉する行為を促すことになる。認識行為までを含んだところがブレヒトのいう異化の特徴である。対象が政治的・社会的な立場で異化されるならば,まだ達せられていない正常な状態の認識は,世界の変革と結びつくことになる。彼が異化は歴史化であるといい,闘争的な技法であるというのはそのためである。あるがままの状態を受け入れず,通念を打破する点で,異化は感情同化に基づく演劇とは対立する。観客が舞台に同化していては,演じられる事件や人物に驚きや好奇心を抱いて自分で認識に到達するようにはならないからである。したがって俳優も役に同化することなく,社会的身ぶり,つまりある時代背景の人物への特徴的な反映を示さなければならない。演技は体験ではなく実地教示(デモンストレーション)なのである。こういうさめた演劇からはカタルシスは追放されるが,ここでは認識が楽しみになるのである。
                        岩淵 達治

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異化(作用)
異化 いか Catabolism 物質代謝(→ 代謝)のひとつ。生物体内にある複雑な物質(有機化合物)が、簡単な物質(無機化合物)に分解される作用。生物は異化(作用)によって活動に必要なエネルギーをえている。呼吸とよばれる現象の本質は異化で、そのとき有機化合物中が分解されてエネルギーが発生し、運動や体温の維持、体物質の合成などといった生活につかわれる。異化の化学反応は、ふつうエネルギーを放出する反応であることから発熱反応とよばれている。生物が外界からえた物質から、体に必要な物質を合成することは同化といい、異化と対語をなしている。

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同化
同化

どうか
assimilation

  

言語学上の用語。 (1) 通時的音韻変化の一種。ある音素Aが,それと直接 (ないし間接) に連なるほかの音素Bの影響により,Bのもつ特徴を共有する別の音または音素に変化すること。京都方言などの「チ」に起った[ti]/ti/ → [t∫i]/ci/ や,首里方言に起った/sita/ 「下」 → /sica/[∫it∫a]の変化は,それぞれ/i/による遡行同化,順行同化の例。 (2) 共時的同化。共通語の「シ」は音声的には[∫i]であるが,音韻論的には/s/が/i/に同化して口蓋化していると説明できるので/si/と解釈される。この場合は/s/に該当する単音そのものに通時的変化 (同化) が起ったとするのではない。





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音位転換
音位転換

おんいてんかん
metathesis

  

音位転倒ともいう。1単語中の2つの音素が位置を交換する現象。偶発的なものは言いまちがいとか,滑稽な効果をねらう場合とかによくみられるが,なかには,それが固定して語形変化を引起す場合もある。たとえば,アラタシ→アタラシ,シタ+ツヅミ→シタヅツミ。中期英語 brid→近代英語 bird,ラテン語 parabola→スペイン語 palabraなどがあげられる。





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綴字発音
綴字発音

つづりじはつおん
spelling pronunciation

  

表記と実際の発音との食違いが大きい場合,実際の発音を知らない人が表記に従ってする発音。英語の oftenを[´ftn]と読むのもその例。その場合の表記は,音韻変化が起きたために発音と合わなくなったものであることもあるし,日本語のあて字のような場合もある。ときには綴字発音が本来の発音に取って代ることもあり,北海道札幌市のツキサップに月寒という字をあてたため,住居表示が正式にツキサムになったのはその一例である。





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文語
文語

ぶんご
written language; literary language

  

文字言語,書き言葉のこと。口語の対。場面に依存することが少く,推敲しながら書くために,話し言葉に比べて不整表現が少く,硬い表現が用いられるのが普通。現代語に基づく口語文と,言文一致以前に用いられていた平安時代の文法に基づく文語文とがある。このような文字言語として用いられるのが普通である単語 (アシタに対するミョウニチなどの文章語) ,あるいは現代語としては普通用いなくなっている単語 (古語) をさしていうこともある。また平安時代の文法に基づく言語体系を文語ということもある。





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文語
ぶんご

日本語ではふつうに文章の体をわけて,文語文(文語体の文章)と口語文(口語体の文章)との対立を考えるが,これらはいずれも書きことば(文章語)における文体の相違である。それは主として文法上の機能を負うもの,特に活用や助辞,文末形式などのちがいによって区別されるが(文語――見ゆ,隠る,花なり,咲かむ。口語――見える,隠れる,花だ,咲くだろう),文法機能に関しない単語にもそれぞれの傾向がみられる。このような文体の特徴をなす用語が文語であって,その中には歌語とか雅語といった特殊の古典的文語も含められる。口語文の中にも文語の形が用いられることがあり,文法体系から孤立しながらしばしば用いられるものがある(堂々タル人物だ,考えるベキでしょう,東京にオケル大会は……,など)。口語文は明治以来の言文一致の運動の結果として作りあげられてきたものであるが,現在では文語文は実用の世界ではほとんど用いられていない。過去の文章としての文語文は,さらに用語の特色によって普通文,候文,漢文訓読文などに分けられる。明治中期は,いろいろな面で各種の文語文が公式の格式のある文章として用いられたが,それは一つには長い伝統,たとえば漢文尊重のあとをうけ,また一種の安定した形式として安全感を与えるとともに,権威主義によってささえられたものでもあった。詔勅,法令文や公用文,官庁・会社等の通信文は,最もおくれて第2次世界大戦後に口語化した。日本の文語文と口語文のような対立は,中国の文言文と白話文も同様で,文字をもつ各言語では多かれ少なかれこのような文体の差がある。文字のない言語でも,改まった儀式や伝承などの際には,文語にあたる特別のことばを用いることがある。
 このような文語は,多くの場合前時代の口語が書かれたり,特殊の場合に用いられたりするために,固定して口語の変化に取り残されたものとみられるが,文語それ自身も変化し,洗練されたことはいうまでもない。一方,文語と口語との対立を,一般に書きことばと話しことばとの体系のちがいとして考えることもある。すなわち,言語活動が文字を媒介として行われる場合に用いられることを予想する記号の体系または記号のそれぞれを文語というのであって,この場合には,文語はさきの文語文の用語ばかりでなく,口語文の用語をも含む。その口語文は,話しことばに近いものではあるが,文語たる口語文と実際の話しことばとの間には,文字の制約だけでなく,多少のちがいがある。たとえば口語文の〈である〉は話しことばではほとんど用いない。〈ないのです〉は普通会話ではナインデスに弱められる。しかしいわゆる口語文法は,本来いわば口語文の文法なのではあるが,話しことばをも規制するものと一般には考えられている。⇒口語∥文語体          林 大

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文語
文語 ぶんご 口語(話し言葉)に対する言葉で、本来は文章を書くときだけにつかわれる言葉。文章語、書き言葉。一般には、現代の書き言葉(→ 口語体)に対して、江戸時代までの古典的な言葉をさしていう。そのもとは平安時代の言葉を手本にしたもので、のちに話し言葉が変化しても書き言葉としてうけつがれてきた。古語。古文。現在では短歌、俳句、文語詩など、ごくかぎられた場合に使用される。

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口語
口語

こうご

  

文語に対する用語で,話し言葉のこと。音声言語 (話し言葉) に基礎をおく文字言語 (書き言葉) は特に口語文という。口語文は言文一致運動以来,音声言語の口語に基づくことをたてまえとしているが,書くという条件のために,整理された硬いものとなり,完全に同一のものにはなっていない。また口語は,現代語の意味で用いられたり,そのなかのひとつひとつの単語,特に日常口頭で用いる普通の (ときには少しくだけた) 文体的特徴をもつ単語の意味で用いられたりもする。





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[ブリタニカ国際大百科事典 小項目版 2008]


口語
こうご

口頭で話す場合の言語と,文字で書きしるす場合の言語とが,用語や語法の面で異なる現象は,多少とも各国語にみられる。これを〈話しことば〉と〈書きことば〉として対応せしめるが,また〈口語〉と〈文語(筆語)〉として対立させることもある。この場合,口語とは広く話しことばを意味する。ところで書きことばは本来は話しことばにもとづくはずのものであるが,日本では書きことばは独特の発達をして,話しことばをよく反映するものと,はなはだしくそれから離れたものとを生じた。この前者を〈口語〉,後者を〈文語〉ということがあり,それによって書かれた文章をそれぞれ〈口語文〉と〈文語文〉,その文体を〈口語体〉と〈文語体〉という。この場合,口語とは,話しことばをよく反映した書きことばを意味する。さらに明治以後,口頭言語の標準が求められるとともに,文字言語についても言文一致の運動がおこって,俗語,俗文の中から新しい標準文体が創造されたので,口語には標準の言語としてのひびきもあり,かつ,明治以後の現代語についてのみ当てられるかの印象もないではない。
 現代の標準話しことばとしての口語は,たとえば,(1)文末に〈ます〉〈です〉または〈だ〉を用いる(〈である〉はほとんど書きことばとしてのみ),(2)動詞・形容詞では終止法と連体法が同形である,(3)動詞に二段活用を用いないで一段活用にする,(4)形容詞ではふつうの連用法に音便形を用いない,(5)打消しに多く助動詞〈ない〉を用いる,(6)起点を示す助詞として〈より〉よりも〈から〉を用いる,などの特色がある。これらは17世紀前後から成形しつつあったもので,口語文の成立とともに一応固定したが,多少不安定なままに規範化された面もあって,今後問題になるべき点には,形容詞の過去(よかった)の丁寧表現,一段活用およびカ行変格活用の動詞につく可能の助動詞(られる)その他があり,標準としてはなお統一と整理ないし精練が必要である。⇒口語体∥口語法∥文語
                           林 大

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口語体
口語体 こうごたい 話し言葉につかわれる言葉をもとにして書く文章の様式。明治時代の言文一致(→ 言文一致体)の運動によって確立された文体で、常体(だ・である体)と敬体(です・ます体)がある。

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言文一致
言文一致運動

げんぶんいっちうんどう

  

日本で明治から大正にかけて行われた,書き言葉を話し言葉に近づけようとする運動。一般に文字をもつ言語では,書き言葉が古い形にとどまりやすく,話し言葉との差が大きくなっていくが,日本でも,明治になって読み書きする階層が広がるにつれて,両者の違いによる不便が痛感され,文筆家によって言文一致の運動が起された。古くは慶応2 (1866) 年の前島密 (ひそか) の『漢字御廃止之儀』にその主張がみられる。「言文一致」の語は 1886年物集高見 (もずめたかみ) が初めて用いた。小説家では山田美妙が「です調」,二葉亭四迷が「だ調」,尾崎紅葉が「である調」の新文体を試みた。 1900~10年の言文一致会の活動によって,運動は一応の確立をみた。なお,この運動で試みられたさまざまの文体を総称して言文一致体と呼ぶ。





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言文一致
げんぶんいっち

書きことば(文)を話しことば(言)に一致させようとすること,また話しことばに準じた文章(言文一致体)をさし,とくに,日本の明治以降のそうした試みを,言文一致運動という。口頭の言語と,文字に書き記すばあいの言語とは,それぞれ特色があって,表面の姿では両者一致しないのがむしろ普通であるが,ことに日本では口頭言語の変遷とは別に文字言語が独特の発達をした。国民教育が国家によって統一的に行われようとする明治初年以前にも,幕末の柴田鳩翁(きゆうおう)の《鳩翁道話》や平田篤胤の《気吹表(いぶきおろし)》のように講話をそのまま筆録した文章もありはしたが,一般に文章は漢文か,和漢混淆(こんこう)か,雅文か,記録書簡体かが正雅のものとして用いられ,口談とのへだたりがとくにはなはだしいものとなっていた。これを口談のがわへ一致させようという考えは,維新直前,前島密の《漢字御廃止之儀》の建白に始まり,西周(あまね),和田文その他諸家の論が起こって,1880年(明治13)ころには学者の二,三の試みも現れた。これを〈言文一致〉という名称で論じたのは,1886年物集高見(もずめたかみ)の著《言文一致》である。当時すでに,かなや,ローマ字の国字主張が盛んで,一方に三遊亭円朝の講談速記がもてはやされており,文章の方面でも同年に矢野文雄の《日本文体文字新論》,末松謙澄の《日本文章論》が出,文芸の上でも坪内逍遥の《小説神髄》など新思潮の動きが活発で,これらの情勢がようやくいわゆる言文一致体の小説を生んだ。1887‐88年ころあいついだ二葉亭四迷の《浮雲》,山田美妙の《夏木立》などがこれである。四迷は模索ののち文末におもに〈だ〉を用い,美妙は〈です〉を用い,おくれて尾崎紅葉は〈である〉によるなど,新文体の創始にそれぞれの苦心がみられる。なかでも美妙は,実作ばかりでなく,《言文一致論概略》などによってその文体を鼓吹し,2~3年にわたって賛否の論争が盛んで,〈言文一致〉はその主張,運動の名であるとともに,その文体の名ともなった。その後しばらく不振の時期をおいて,日清戦争後,標準語制定を急務とする上田万年の言文一致の主張をはじめ,四迷の翻訳,正岡子規の写生文などにより再び文壇に力を得,文語の〈普通文〉が一種の標準文体として固定しつつある一方で,新聞の論説も言文一致をとるものが現れた。
 文章の改善は国語国字問題の重要な一環と考えられ,1900年には帝国教育会内に言文一致会が成立して,一つの国民運動となった。これには排言文一致会のような反対もあったが,この時期ではもはや一致か否かの論ではなく,新文体をどのように育てあげるかが問題で,口語法に関する全国的な調査が行われ(1903。《口語法》の項目を参照),国定最初の《尋常小学読本》には口語文が確たる地歩をしめた(1904)。文芸の面でもしだいに文語文を減じ,ことに日露戦争後,自然主義文学の盛行につれて,その傾向は決定的になった。言文一致会は1910年に成功を祝して解散し,言文一致の運動はほぼこの時期に終わったが,すでに口語の文章が俗文の観念を脱していたわけである。しかし新聞記事が全面的に口語化したのは1921年(大正10)ころであり,公用文,学術論文,書簡文などの口語化はさらに久しい年月を要した。また今日固定化する傾きのある口語文に対して,とくに第2次世界大戦後の国字改革に伴って,第2の言文一致が唱えられもするが,今日の口語文の基礎は上記の言文一致運動の時代に固められていたのであって,その運動に参加した人々,とくに文芸家の力は没することができない。言文一致運動は,明治の国家主義の一手段であったと同時に,近代への人間解放の大きな原動力もしくはその必然の結果でもあり,国語問題史上の要点であると同時に文芸史上の画期的事業であったというべきである。⇒国語国字問題 林 大

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言文一致体
I プロローグ

言文一致体 げんぶんいっちたい 話し言葉(言)と書き言葉(文)とを一致させた文体。日本では19世紀後半、近代化と国民国家の形成がおしすすめられる中で生まれた、言語面の改良運動である。

II 言文一致運動の初期

言語の改良運動は、1866年(慶応2)前島密が「漢字御廃止之議」建白で主張した漢字廃止論にはじまり、西周や田口卯吉らがとなえた国語表記のローマ字化の議論、清水卯三郎(うさぶろう)らが主張した平仮名化の議論など、国字改良論が主流であった。しかし物集高見(もずめたかみ)の「言文一致」(1886)など言文一致をとなえる書があいついで出され、しだいに言文一致論へとうつっていく。江戸時代までは、漢文体が正式な書き言葉とされていたが、それでは話し言葉との隔たりがあまりに大きい。西欧の思想や文物を移入して普及させるには、書き言葉を話し言葉に近づけて平易明確なものにすることが必要だと考えられたのである。→ 国語国字問題

言文一致体は、自由民権の啓蒙書などで、いちはやく採用された。そのほか、大衆相手の小新聞や日本にはいって間もない速記をつかって三遊亭円朝が出した「怪談牡丹灯籠」(1884)などの速記本が人気を博したことも、言文一致の普及に貢献した。

III 文学における言文一致

そのような中で、文学の分野でも言文一致体がこころみられた。二葉亭四迷「浮雲」(1887~89)、「あひゞき」(1888)、山田美妙「夏木立」(1888)などがその最初である。文末を「だ」「です」「である」のどれにするかという試行錯誤や、言文一致体は余情にとぼしいとする反対意見との論争の中で、ホトトギス派の写生の主張や自然主義文学が盛んになったことも寄与して、文学における言文一致体はしだいに定着してゆく。

IV 近代日本形成にはたした役割

1900年代初頭には小学校の教科書で多くの口語文が採用されるなど、さまざまな分野において徐々に言文一致体が普及していった。ただ政治や司法、官庁の公用文など、太平洋戦争敗戦後まで言文一致が確立しない分野もあった。

なお、言文一致が、たんに既存の話し言葉を書き言葉としてもちいたものではなく、むしろ、近代日本をつくりだす一環として生みだされた、書き言葉の新しい文体だったということに注意する必要がある。近年、近代国民国家の形成と言文一致体の成立とを関係づける議論が深まってきているが、それはこの点に着目してのことである。

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イントネーション
イントネーション

イントネーション
intonation

  

広義では,音声連続においてみられる音の高さの変動の総称で,「音調」ともいわれる。音節音調,単語音調,句音調などもあるが,狭義では,文にあたる単位に現れる音調,すなわち「文音調」をさすのが普通である。アクセントが単語 (結合) について一定しており,単語の意味との関係が恣意的なのに対し,文音調は肯定,質問などの意味をもち,同一の単語のうえにいろいろの文音調が加わりうる点が異なる。東京方言では「切る」は/〇〇/,「着る」は/〇「〇/というアクセントをもつが,おのおのに対し,肯定//,質問//,問い返し/\/などの文音調が加わることができ,しかも,それぞれの場合において,アクセントの相対的区別は常に保たれる。また,文音調は,質問音調のほうが肯定音調よりも上昇の程度が大きいのが普通であるというように,心理的要因に支配される面が多いが,また社会慣習的決りでもあるから,言語 (方言) による差もある。





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イントネーション
intonation

文全体あるいはその一部分にかかわる音声的特徴で,その言語社会において習慣的に定まっている状態のものをいう。日本語では抑揚ともいう。主として高さの変動がその実質をなしている。文のイントネーションが同一言語内に複数種類ある場合,それらがなんらかの意味的差異に関与しているといってよい。文というものの長さがさまざまなので,異なるイントネーションは文の中間部よりも末尾における音程動態で互いに区別されることが多い。東京方言の簡単な文を例にとると,〈来る〉は,単語としては〈ク〉が高く〈ル〉が低いという高低アクセントで発音されるものであるが,文の場合には,〈ル〉が下がりっぱなしで発音されると,通常,誰かが来るということを表すが,〈ル〉が低いところから軽く上昇すると,疑問を表す文になる。すなわち,イントネーションの違いが文の意味の違いに結びついているわけである(東京方言では,実際にはイントネーションの種類はもう少し多く,微妙かつ複雑である)。イントネーションは,それをどの程度に利用するか,何種類有するかといった点で,言語や方言によって非常に変異する。叙述文と肯否を問う疑問文が単語や接尾辞などによらずにもっぱらイントネーションの違いで区別される言語もある。なお,いくつかの言語間には共通性が認められるが,文末が上昇すると疑問を表すということが普遍的であるとする考え方は,事実に反する。また,高低アクセントを用いる言語で,かつ,文末に各イントネーションの特徴が現れる言語(日本語もその一例である)では,イントネーションが特に文末の語の高低アクセントとからんで現れることが多い。東京方言の〈来る?〉と〈行く?〉では,〈ル〉と〈ク〉が上昇する点では共通であるが,高低アクセント上〈ル〉と〈ク〉の高さが異なるため,それぞれの上昇の出発点の高さがひどく異なっている(この場合,〈ル〉のほうが低い)。スワヒリ語(アフリカ)では,たとえば anasoma〈(彼は)読んでいる〉は,単語として so が高いというアクセントを有し,叙述文(平叙文)ではそのとおりに発音される。しかし,疑問文では,so をより高くし,末尾の低い ma との差を誇張するようなイントネーションをとる。したがって,イントネーションを解明するには,その言語のアクセントを解明することが先決である。⇒アクセント   湯川 恭敏

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イントネーション
イントネーション Intonation 単語よりも大きな単位について観察される、声の抑揚(上がり下がり)のパターンをイントネーションとよぶ。文全体についての抑揚のことをいう場合が多いが、句や節を単位とするイントネーションもある。単語を単位とする声の上がり下がりは「アクセント」とよばれ、イントネーションとは区別される。標準語について、「雨」では「あ」を高く発音し、「飴(あめ)」では「め」を高く発音するようになっているのはアクセントの違いであって、イントネーションの違いではない。

イントネーションの代表は、文末を下降調(声が低くなる抑揚)で発音すれば「平叙文」となり、文末を上昇調(声が高くなる抑揚)出発音すれば「疑問文」になるというものである。日本語では、疑問文は文末に「か」をつけることで表現されるが、実際に発音するときには文末は上昇調となる。日本語以外の言語でも、平叙文は下降調、疑問文は上昇調のイントネーションで発音される場合が多い。ただし、ロシア語のように、これとはことなったイントネーションで平叙文と疑問文を区別する言語もある。

イントネーションは、平叙文と疑問文の区別だけでなく、反語、確認、落胆など、話し手のさまざまの感情をあらわす働きをする。日本語の「行きますか」を上昇調で発音すれば疑問の意味をあらわすが、下降調で発音すれば、相手の行動を確認する意味合いが出てくる。

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共時言語学
通時言語学
史的言語学
史的言語学

してきげんごがく
historical linguistics

  

いかなる言語も時間とともに変化するが,その言語の変遷を研究する学問を史的 (歴史) 言語学という。分野別に分けるときには,史的音韻論 (音韻史) ,史的文法論 (文法史) ,史的意味論などという。 19世紀には,H.パウルにその典型をみるように,史的言語学のみが科学とみなされていたが,20世紀に入ってソシュールにより共時言語学の独立,それと通時言語学との峻別が提唱され,さらに R.ヤコブソン,N.トルベツコイ,A.マルティネらによって構造的史的言語学が打立てられた。これにより,以前のような個々の言語要素の変遷ではなく,言語の体系・構造の変遷がより全体的にとらえられるようになった。なお,史的言語学を共時 (記述) 言語学から区別するのは,あくまでも言語そのものの総合理解のための方法であって,言語そのものが2つの面に分裂していることを主張するものではない。





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H.パウル
パウル

パウル
Paul,Hermann

[生] 1846.8.7. マクデブルク
[没] 1921.12.29. ミュンヘン

  

ドイツの言語学者。フライブルク大学,次いでミュンヘン大学の教授。インド=ヨーロッパ語族,特にゲルマン語派の歴史的研究に力を注ぎ,その言語学方法論をもって青年文法学派の理論的指導者の役割を果した。『言語史原理』 Prinzipien der Sprachgeschichte (1880) では,言語の研究は歴史的でなければならないことを説き,言語の変化の原因を,主として心理学的に追究した。ほかに,『ドイツ語辞典』 Deutsches Wrterbuch (97) ,『ドイツ語文法』 Deutsche Grammatik (1916~20) などの著書がある。また,『ゲルマン文献学大系』 Grundriss der germanischen Philologie (3巻,1891) を編集,その後,この叢書は最高権威として今日まで続刊している。





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パウル 1846‐1921
Hermann Paul

ドイツの言語学者。ベルリン大学,ライプチヒ大学に学び,のちフライブルク大学,ミュンヘン大学教授としてゲルマン語を講じたが,その文献学的な歴史研究は現在のゲルマン語学の基礎を築くものであった。著作としては《ドイツ語辞典》や《ドイツ語文法》(5巻)などのほか,《言語史原理Prinzipien der Sprachgeschichte》(1880)があり,これは K. ブルクマンを中心とする青年文法学派の言語理論を代表する著作であると同時に,今日でも言語の歴史的研究を志す者には必読の書とされている。               風間 喜代三

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