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言語学・ゲームの結末を求めて(その5) [宗教/哲学]


空間知覚
空間知覚

くうかんちかく
space perception

  

一般的には,上下,左右,前後の広がりに関する体験をもつことをさす。こうした体験のうちには,事物の形,大きさ,長さ,あるいはそれらの存在する方向,場所,ないしは事物までの距離や事物相互間のへだたりなどの知覚が含まれる。こうした広がりに関する体験が,おもにどの感覚系に依存して現れるかに応じて,視空間,聴空間,触空間などが区別される。通常,視覚系による空間把握が優位となることが多い。しかし,各種感覚系と運動系とは多かれ少なかれ相互に関連し合い,組織化されて,統合的に空間把握が行われていると考えられる。1つあるいはそれ以上の感覚系に障害がある場合,その空間知覚は特殊なものとなる。空間知覚がいかにして成立するかという問題に関しては,先天説と経験説との間に長い論争の歴史があり,現在でも未知の部分を多く残している。 (→奥行知覚 , 形の知覚 )  





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[ブリタニカ国際大百科事典 小項目版 2008]
視空間
視空間

しくうかん
visual space

  

視覚を通じて構成される行動空間のことで,空間知覚の基礎となる。視覚だけでなく,重力によって生じる感覚なども,視空間を規定する重要な要因となる。上下,左右,前後の3方向は主要方向と呼ばれ,これら以外の方向にはない特別な重みをもっている。対象の主軸が主要方向と一致する場合は,知覚が正確になる。ただし,主要方向の間でも空間の異方性が存在する。





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錯覚
錯覚

さっかく
illusion

  

対象が特殊な条件のもとで,通常の場合とは食違って知覚される現象。知覚器官や中枢部に異常がなくてもしばしば起るので,病的現象と断定することはできず,「対象のない知覚」つまり幻覚とは区別される。視覚について現れる錯覚 (錯視) が最も多く知られており,ミュラー=リヤーの図形やネッカーの立方体の見え方,あるいは月の錯視などがその例である。触覚的錯覚については,アリストテレスの錯覚が古くから知られており,大きさと重さの関係に関しては,シャルパンティエ効果が知られている。





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錯覚
さっかく illusion

知覚に関係する諸器官になんら異常がないのに,実際とは違った知覚が起こったり,実際の知覚に,そこにないものの知覚や思込みが加わる現象。これらは視覚,聴覚,触覚などの五感の領域に出現するほか,身体が動いていないのに動いている感じ,足を曲げているのに伸ばしている感じなど,運動感覚,位置感覚などの内部感覚にも起こる。
 錯覚はその出現様式によっていくつかの型に区別される。(1)書物の文章の誤植が見落とされるように,注意の向け方が不十分なとき別の知覚要素が補ってしまう不注意錯覚。人物誤認のなかにはこの種の錯覚によるものがあり,軽い意識障害を伴った精神病状態のときによく出現することがある。(2)感動時,たとえば夜道を怖い思いをしながら歩いているとき木立を人間の姿と思い込んだり,ひとりで留守番をしているとき風の音を人のいる気配に感じとってしまう感動錯覚。この場合,注意を固定して判断しようとしてもそう見えてしまう。ここでは知覚要素が錯覚と並んで存続するのではなく,錯覚に吸収されてしまっている。強い不安・恐怖感を伴う精神病状態のときにも,しばしば出現する。(3)青空に湧きあがった入道雲の一部がどうしても人間の顔に見えてしまうなどのパレイドリア。実際にはそうでないという批判力がありながら対象とは異なって知覚され,情動や連想とは無関係に,いったんそう見えてしまうと意志に反して現れつづける変形した知覚である。幼少年者がよく体験し,熱にうなされたときなどにも活発に現れる。(4)主体側の条件によってではなく,知覚対象が一定の配列にあるとき,だれにでも起こる生理的錯覚。夕日の太陽が大きく見えたり,止まった電車の窓からなんとなく見ている隣の電車が動き出すと,自分の身体が乗っている電車ごと動き出すのを身体に感じてしまうもの。
 錯覚は知覚対象の存在しない幻覚や,前に見たり聞いたりしたことのある像や言葉があとになって感覚的に浮かんでくる感官記憶とは区別される。⇒錯視                     中根 晃

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錯覚
I プロローグ

錯覚 さっかく Illusion 対象の大きさ、形、色、明るさ、重さ、運動印象、あるいは時間などが、対象の客観的な属性とは明らかに食いちがって知覚されること。ただし以下にのべる幻覚や妄想などの病理的事態ではなく、正常にもかかわらず、だれにもそのように知覚される場合を総称して錯覚という。幻覚は、アルコールや薬物の中毒、あるいは高熱によって、何かが見えたり(幻視)、何かが聞こえたり(幻聴)することで、それが生じる物理的な刺激がない場合の知覚である。また妄想は、精神病理状態において生じる、根拠のないあやまったものだが、直感的な確信をともなった思考や判断の異常である。

視覚の場合の錯覚をとくに錯視という。また、優秀なステレオ再生装置による生き生きとした音場空間の再生は聴覚的錯覚の例であり、触覚にも味覚にも温度感覚にも類似の錯覚現象を指摘することができる。しかし、心理学でおもに研究されてきたのは錯視についてである。以下にみる幾何学的錯視や見かけの運動知覚は、古典的な要素主義心理学の恒常仮説(刺激と知覚の間に一対一対応があるという説)(→ ゲシュタルト心理学)を批判するための格好の材料となったからである。

II 幾何学的錯視

古典的な幾何学的錯視のなかでもっとも有名なもののひとつはミュラー・リヤーの錯視である。図Aにみられるように、a、bは等しい長さの線分である。これに矢羽のついた図Bをみると、線分aはもはやbとは等しくみえない。これは要素的な線分としては同じもので構成されていながら、しかし、aをふくむ閉じた矢羽の図形と、bをふくむ開いた矢羽の図形が全体としてことなった図形であるところから、aやbの要素的線分の知覚のされ方がことなってきたものと考えられる。これと同じような幾何学的錯視には、ツェルナーの錯視図形、ジャストローの錯視図形などがあるほか、E.マッハの本やシュレーダーの階段など、反転を利用した錯視図形は数多くある。

また比較的近年になってとりあげられ、G.カニッサの「主観的輪郭線」とよばれている図Cには、中央に周囲よりも一段と白く浮きでた三角形がはっきりみえる。にもかかわらず、それを構成する輪郭線は存在しない。これも幾何学的錯視の一種である。一般に幾何学的錯視は線分や角が空間的に近接して存在している場合に、その情報処理の内的過程に相互作用がおこることによって生じると考えられている。またカニッサの主観的輪郭線の場合には、プレグナンツの原理(→ ゲシュタルト心理学の「ゲシュタルト法則」)がはたらいていると考えられる。なお平面的幾何学的錯視を利用したいくつかの逆理図(ありえない図)が考案されている。その代表的なものはペンローズの三角形および画家M.C.エッシャーの一連の奥行き手がかりを加味した3次元的な作品である。

III 見かけの運動

錯視は運動印象についても生じる。暗室の中で、少しはなれた2点A、Bをある時間間隔で点滅させると、点Aから点Bに光がとぶようにみえる。このように、客観的には独立した点の点滅にすぎないものに運動印象を知覚する場合を仮現運動(見かけの運動)とよび、AとBとの間を一定にしたときに時間間隔を変化させることによって最適の運動印象がえられる場合をφ(ファイ)現象とよぶ。これを利用したものが映画である。仮現運動のほかに、流れゆく雲間を月が逆方向にすすんでいくようにみえる誘導運動、つまり動くものによって、本来は動かないものの運動印象がひきおこされる場合、あるいは暗室の一点に線香をともし、それを注視していると、その一点は固定されているにもかかわらず光の点が大きくゆらいで動いてみえるという自動運動など、種々の運動錯視現象が知られている。

このほかに、地平線上の満月が、天空にきたときより大きくみえる月の錯視(水平線にしずむ太陽の錯視)、雨上がりの日に遠くの山がいつもより近くみえたりする遠近や大きさの錯視(大きさの恒常性)、色の対比効果による錯視、暗くなっても白い紙はやはり白くみえる明るさの恒常性など、人間の知覚には種々の錯視現象がみいだされる。


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空間の異方性
空間の異方性

くうかんのいほうせい
anisotropy of space

  

心理学用語。空間内に置かれた事物の長さや大きさが,その位置や方向によって同一の物とは知覚されない現象をさす。われわれの知覚空間は,すべての方向について等質なユークリッド空間の特性をもっているというわけではなく,位置や方向に応じた非等質性 (ひずみ) ,すなわち異方性を示すことが少くない。視空間では,月の錯視や水平線分に対する垂直線分の過大視などの諸現象がその例としてあげられる。 (→幾何学的錯視 )  





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月の錯視
月の錯視

つきのさくし
moon illusion

  

月や太陽が中天にあるときよりも,水平線や地平線の近くにあるときのほうが大きく見える現象。現在では,それは物理現象ではなく,方向によって物の大きさが違って見える錯視現象の一種であると考えられている。 (→空間の異方性 )  





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幾何学的錯視
幾何学的錯視

きかがくてきさくし
geometrical optical illusions

  

視覚的な錯覚 (錯視) の一種で,平面図形の幾何学的次元や関係 (すなわち,大きさ,長さ,方向,角度など) が,実際とは異なって知覚される現象をさす。種々の錯視図形が見出されているが,多くは発見者の名をもって呼ばれている。著名なものは,ミュラー=リヤーの図形であるが,このほか,次のような各種の錯視図形があげられている。 (1) ツェルネル,ブント,ヘーリング,ポッゲンドルフの各図形。これらは方向の錯視を伴うものとして一括される。 (2) 分割距離錯視,すなわち,長さや広がりが数個に分割される際に,それらが過大視される図形。 (3) ある大きさの図形が,その近傍あるいは周囲におかれた別の図形の大小によって,過小視,あるいは過大視されるもの。これ以外に,垂直な線分と水平な線分との間に起る垂直線過大視現象や,ジャストロー,ザンダー,ポンゾ,デルブーフなどの各錯視図形が知られている。





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ミュラー=リヤーの図形
ミュラー=リヤーの図形

ミュラー=リヤーのずけい
Mller-Lyer figure

  

幾何学的錯視図形の一種。 1889年 F.ミュラー=リヤーにより考案された。長さの等しい2本の直線のうち,外向きの矢羽根のついた直線は,見かけ上,客観的な長さよりも長く見え,内向きの矢羽根のついた直線は短く見える錯覚を生じるというもの。





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聴空間
聴空間

ちょうくうかん
auditory space

  

聴覚を通して行われる方向や距離などの弁別,認知 (すなわち,音定位) に基づいて成立した空間。空間知覚に対する聴覚の役割は,視覚健常者においては視覚ほど大きくないが,先天的な視覚障害者の場合には,健常者には聞えない小さな音でも知覚できるくらい聴空間の範囲が広く,より緻密になる。





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触空間
触空間

しょくくうかん
tactual space

  

視覚と聴覚を伴わない体性感覚だけの働きによって生じる行動空間。自己の身体皮膚面上で,物体の触れた位置,広がり,方向などを知覚する受動的側面と,自己の身体を離れた外界の状況,すなわち環境事物の大きさ,形状,位置,方向などを知覚する側面とから成る。後者はさらに両手に包まれる狭い触空間,両腕をいっぱいに動かして触知しうる,より広い触空間,全身の移動を必要とする身のまわりの空間とに分けられる。





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時間知覚
時間知覚

じかんちかく
time perception

  

時間の経過あるいは時間の長さを,物理的な計測手段によらずに,主観的に把握すること。直接知覚しうる時間の長さは,通常,数秒以内の,いわゆる心理的現在 (主観的に現在に属すると感じられる時間) の範囲内に限られており,この範囲をこえる時間は,評価あるいは判断することによって初めて,その経過や長さがとらえられる。





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感覚
感覚

かんかく
sensation

  

一般的には,刺激受容器の活動とそれに続く皮質感覚領までの神経活動に密接に依存していると想定される意識経験。個々の感覚領域としては,受容器の相違に応じて,視覚,聴覚,触覚,味覚,嗅覚,圧覚,痛覚,冷覚,温覚,運動感覚,平衡感覚,内部感覚などが区別される。古くは,感情的な体験を意味するものとして用いられていたが,W.ブント以来,意識経験の知的要素をさすものとして用いられるようになった。ブントに続く構成主義心理学の感覚の概念は,ゲシュタルト学派によって批判されたが,現在でも感覚に関する定義は必ずしも確定しているとはいえない。ブントや E.B.ティチェナーの立場では,感覚と知覚とは概念のうえで明確に区別されていたが,ゲシュタルト学派の批判によれば,両者の間に本質的な差はなく,局限化された条件下で現れてくる知覚体験,ないしは種々の具体的,総体的な意識内容を捨象した素材的,分析的な知覚体験を感覚とみなすことが多い。





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感覚
かんかく sensation

感覚器官に加えられる外的および内的刺激によって引き起こされる意識現象のこと。
【哲学における感覚】
 仏教用語としては古くから眼識,耳識,鼻識,舌識,身識(これらを生じさせる五つの器官を五根と称する)などの語が用いられたが,それらを総称する感覚という言葉は sensation の訳語として《慶応再版英和対訳辞書》に初めて見える。日常語としては坪内逍遥《当世書生気質》などに定着した用法が見られ,また西田幾多郎《善の研究》では知覚と並んで哲学用語としての位置を与えられている。
 哲学史上では,エンペドクレスが感覚は外物から流出した微粒子が感覚器官の小孔から入って生ずるとしたのが知られる。それに対しアリストテレスは〈感覚能力〉を〈栄養能力〉と〈思考能力〉の間にある魂の能力の一つととらえ,それを〈事物の形相をその質料を捨象して受容する能力〉と考えた。一般にギリシア哲学では,感覚と知覚との区別はいまだ分明ではない。感覚が認識論の中で主題的に考察されるようになったのは,近世以降のことである。デカルトが方法的懐疑の途上で,感覚に由来する知識を人を欺きやすいものとして真っ先に退けたように,大陸合理論においては一般に感覚の認識上の役割は著しく軽視されている。カントにおいては,感覚は対象によって触発されて表象能力に生じた結果を意味するが,〈直観のない概念は空虚であり,概念のない直観は盲目である〉の一句に見られるように,彼は感性的直観と概念的思考の双方を重視した。他方イギリス経験論においては,感覚はあらゆる認識の究極の源泉として尊重され,その思想は〈感覚の中にあらかじめないものは知性の中にはない〉という原則に要約されている。ロックによればわれわれの心は白紙(タブラ・ラサ tabula rasa)のようなものであり,そこに感覚および内省の作用によってさまざまな観念がかき込まれる。ここで感覚とは,感覚器官が外界の可感的事物から触発されることを通じて心に伝えるさまざまな情報のことである。また感覚の要素的性格は,〈単純観念〉がいっさいの知識の材料であるとする考えの中に表現されている。ロックの思想はバークリーおよびD. ヒュームによって受け継がれ,さらに19世紀の後半マッハを中心とする〈感覚主義〉の主張中にその後継者を見いだす。マッハは伝統的な物心二元論を排し,物理的でも心理的でもない中性的な〈感覚要素〉が世界を構成する究極の単位であると考えた。その思想は論理実証主義によって展開され,〈感覚与件理論〉として英米圏の哲学に浸透した。〈感覚与件 sense‐datum〉の語はアメリカの哲学者 J. ロイスに由来し,いっさいの解釈や判断を排した瞬時的な直接経験を意味する。代表的な論者には B. A. W. ラッセルおよび G. E. ムーアがおり,そのテーゼは事物に関する命題はすべて感覚与件に関する命題に還元可能である,と要約される。マッハに始まるこれら現代経験論の思想は,要素心理学や連合心理学の知見,およびそれらの基礎にある恒常仮定(刺激と感覚との間の1対1対応を主張する)とも合致するため,19世紀後半から20世紀初頭にかけて大きな影響力をもった。
 しかし20世紀に入ってドイツにゲシュタルト心理学が興り,ブントに代表される感覚に関する要素主義(原子論)を批判して,われわれの経験は要素的感覚の総和には還元できない有機的全体構造をもつことを明らかにした。メルロー・ポンティはゲシュタルト心理学を基礎に知覚の現象学的分析を行い,要素的経験ではなく〈地の上の図〉として一まとまりの意味を担った知覚こそがわれわれの経験の最も基本的な単位であることを提唱し,要素主義や連合主義を退けた。また後期のウィトゲンシュタインは,言語分析を通じて視覚経験の中にある〈として見る seeing as〉という解釈的契機を重視し,視覚経験を要素的感覚のモザイクとして説明する感覚与件理論の虚構性を批判した。このように現代哲学においては,合理論と経験論とを問わず,純粋な感覚なるものは分析のつごう上抽象された仮説的存在にすぎないとし,意味をもった知覚こそ経験の直接所与であると考える方向が有力である。いわば認識の構造を無意味な感覚と純粋の思考という両極から説明するのではなく,両者の接点である知覚の中に認識の豊饒(ほうじよう)な基盤を見いだそうとしているといえよう。日本では近年,中村雄二郎が個々の特殊感覚を統合する〈共通感覚〉の復権を説いて話題を呼んだ。⇒意識∥感覚論∥知覚       野家 啓一
【感覚の生理】
 われわれの体には,内部環境や外部環境の変化を検出するための装置がある。この装置を受容器という。受容器を備えて特別に分化した器官が感覚器官である。内・外環境の変化が十分大きいと,受容器は反応し,次いでそれに接続した求心神経繊維に活動電位が発生するが,これを神経インパルスあるいは単にインパルスという。求心繊維を通るインパルスは脊髄あるいは脳幹を上行し,大脳皮質の感覚野に到達する。普通,生理学的には,感覚は〈感覚野の興奮の結果生ずる,直接的・即時的意識経験〉と定義される。これらのいくつかの感覚が組み合わされ,ある程度過去の経験や記憶と照合され,行動的意味が加味されるとき知覚が成立する。さらに判断や推理が加わって刺激が具体的意味のあるものとして把握されるとき認知という。例えば,われわれが本に触れたとき,何かにさわったなと意識するのが感覚であり,その表面がすべすべしているとか,かたいとかいった性質を感じ分ける働きが知覚であり,さらにそれが,四角なもので,分厚く,手に持てるといった性質や過去の同種の経験と照合して本であると認知されるのである。受容器から出発して感覚野に至るインパルスの通る経路を感覚の伝導路という。受容器,伝導路および感覚野によって一つの感覚系が構成される。環境の中のいろいろな要因のうち,受容器に反応を引き起こすものを感覚刺激といい,特定の受容器に最も効率よく反応を引き起こす感覚刺激をその受容器の適当刺激 adequate stimulus という。例えば眼(感覚器官)の光受容器は,電磁波のうち,400~700nmの波長帯域すなわち光にのみ反応する。このことから受容器は多数の可能な感覚刺激の中から特定のものを選び分けて,その情報をインパルス系列にコード化し,中枢神経系に送る一種のフィルターとして働くとも考えることができる。大脳皮質に達した神経インパルスは,ここで処理され,その情報内容が分析され,さらにいろいろな受容器からの情報と組み合わされて,総合的情報が形成され,それが感覚野の興奮に連なるのである。
[感覚の種類]  受容器を適当刺激の種類により分類すると表1のようになる。またシェリントンCharles Scott Sherrington(1857‐1952)は,受容器と刺激の関係から受容器を外部受容器exteroceptor(体外からの刺激に反応する受容器)と内部受容器 interoceptor(身体内部からの刺激に反応する)とに分けた(1926)。前者は,さらに遠隔受容器 teleceptor(身体より遠く離れたところから発せられる刺激に反応するもの,視覚,聴覚,嗅覚の受容器)と接触受容器 tangoceptor(味覚や皮膚粘膜にある受容器)に,後者は固有受容器proprioceptor(筋肉,腱関節,迷路などの身体の位置や,四肢の運動の受容器)と内臓受容器visceroceptor(内臓にある受容器)に分けた。このような受容器の相違に基づき感覚は種 modalityに類別される。古くから五感といわれた視覚,聴覚,触覚,味覚,嗅覚のみならず,平衡感覚,温覚,冷覚,振動感覚,痛覚なども種である。さらに同じ感覚種内でも個々の受容器の特性の違いから起こる感覚の内容の違いを質 quality という(表1)。例えば視覚では,受容器として杆(状)体,錐(状)体の2種類がある。杆体の働きにより明・暗の感覚が,錐体の興奮により赤,黄,緑,青といった色づきの感覚が生ずる。これらを質というのである。表2に臨床的感覚の分類を示す。視覚や聴覚のように受容器から大脳皮質まで判然とした形態学的実体をもったものと,そうでないものという観点から,前者を特殊感覚,後者を体性―内臓感覚とするものである。
[感覚の生理学的研究方法]  感覚の生理学的研究方法には,主観的方法と客観的方法とがある。主観的方法では刺激とそれによって引き起こされる被検者の感覚の大きさを被検者自身が評価するもので,精神物理学的方法ともいわれる。客観的方法は主として神経生理学的方法によるもので,例えば微小電極をしかるべき感覚系の特定の部位に刺入し,個々のニューロンのインパルス反応を記録することにより,感覚の神経機序を研究対象とする。最近では,行動科学的手法による感覚の研究も行われている。これはオペラント条件づけの方法を用いて,感覚刺激とそれによって引き起こされる行動の変化を観察,計測するものである。例えば視覚でよく知られている暗順応の時間経過をハトを使って行った実験が有名である。ハトに,刺激光を見たときに A のキーをつっつき,刺激光が見えないとき B のキーをつっつくようオペラント条件づけの方法で学習させる。ハトを明るいところから暗いスキナー箱に入れ,目の刺激光を点灯する。ハトは刺激光が見えるので A をつっつく。すると刺激光はしだいに暗くなっていき,ハトは見えなくなるまで A をつっつく。刺激光が見えなくなってはじめてハトは B をつっつき,見えるまで B をつっつき続ける。ハトは A とB のキーを操作することによって刺激閾(いき)を決定するわけである。このようにして時間的に刺激閾が低下する,いわゆる暗順応曲線がハト自身の行動によって描かれるのである。
[感覚の受容機構]  受容器(具体的に細胞を指すときは受容器細胞または感覚細胞という)はそれ自身がニューロンであって,軸索が第一次求心繊維として働くものと,それ自身は上皮細胞に由来する非ニューロン性細胞で,これに感覚ニューロンがシナプス結合しているものとある。前者を一次感覚細胞(例,嗅細胞),後者を二次感覚細胞(例,内耳の有毛細胞)という。
 感覚の受容機構を甲殻類の伸張受容器を例にして簡単に説明しよう(図1)。この受容器細胞は大型の神経細胞で筋繊維の近くに存在する。細胞体からでる樹状突起 dendrite が筋繊維の表面にくっついており,筋繊維が伸ばされると,樹状突起も引っ張られ変形を受ける。このとき細胞の膜電位は脱分極を示す。この脱分極の大きさは伸長が大きくなればなるほど大きくなるという性質をもつ(この性質をもつ反応を段階反応 gradedresponse という)。脱分極がある一定の大きさを超えると,このニューロンの軸索に全か無かの法則によってインパルスが発生し,軸索を中枢に向かって伝わる。インパルスの頻度は受容器電位の振幅と直線関係をもつ。内耳の有毛細胞では,機械的刺激によって毛が屈曲するとき膜電位が変化するが,動毛側への屈曲で脱分極,不動毛側への屈曲で過分極が生ずる。脱分極性の受容器電位の場合には,有毛細胞からその振幅に相応した量の化学伝達物質がシナプス間隙(かんげき)に放出され,この伝達物質の作用を受けて求心繊維の終末が脱分極する。このシナプス後電位の大きさが十分大きいとき,求心繊維にインパルスが生ずる。一次感覚ニューロンでみた受容器電位は,直接インパルスを発生させる原因になるところから起動電位 generator potential ともいわれる。一次求心繊維の放電頻度の時間経過をみると,一定の大きさの刺激を持続的に与えているにもかかわらず,しだいに低下してくる。この現象を順応 adaptation という。これに相当する現象はすでに受容器電位(または起動電位)にも起こっていることが確かめられている(図2)。順応の速い受容器を速順応性 quickly adapting(略して QA),遅いものを遅順応性 slowly adapting(略して SA)という。感覚にみられる順応現象がすでに受容器で起こっていることを示すものである(もちろん,感覚の順応には受容器の順応のみでは説明できない部分がある)。
[感覚の基本的特性]  個々の感覚はいくつかの基本的特性(属性)によって規定される。質,強さ(大きさともいう),広がり(面積作用)および持続(作用時間)の四つが主要なものである。
(1)感覚の大きさ 一つの感覚系について,感覚刺激の強さを十分弱いところからしだいに増していくと,やっと感覚の生ずる強さに達する。感覚が生ずる最小の刺激の強さを,その感覚の刺激閾(絶対閾)という。またある強さ I と I+ぼI が識別できる最小の強さの差 ぼI を強さに関する識別閾という。この場合,ぼI/I の比を相対刺激閾という。この比がそれぞれの感覚について,ある刺激の強さの範囲内でほぼ一定であることが E. H. ウェーバーによって見いだされた。この比をウェーバー比 Weber ratio という。この比の値はだいたい次のようである。光の強さ1/62,手で持った重さ1/53,音の強さ1/11,塩の味1/5。絶対閾は,光覚で10-8μW,音の強さ10-10μW/cm2(このとき鼓膜を10-9cm足らず動かすにすぎない)などである。感覚の大きさと,刺激の強さの関係を示す式として,ウェーバー=フェヒナーの式とスティーブンス S. S. Stevens が提唱したスティーブンスのべき関数が知られている。感覚の大きさを R,刺激の強さを I,刺激閾を I0とすると,
 R=KlogI+C (ウェーバー=フェヒナーの式)
 R=K(I-I0)n (スティーブンスのべき関数)
ともに K と C は定数である。スティーブンスのべき指数 n の値は暗順応眼の点光源の明るさについては0.5,砂糖の甘味1.3,腕の冷覚1.0,圧覚1.1などである。中耳の手術の際に鼓索神経からインパルスを記録し,味覚刺激の濃度とインパルス頻度の関係を求めたところ,主観的計測で求められたのと同じ n の値をもつべき関数が得られた。感覚神経から記録されるインパルスについては,〈刺激の強さが増すにつれてインパルス頻度が増し,また放電活動する繊維の数も増す〉ことが知られている。これをエードリアンの法則 Adrian’slaw という。
(2)感覚の空間的特性 感覚は大脳皮質感覚野の興奮に起因する現象であるが,このときわれわれは感覚刺激が外界の,あるいは身体の一定の場所に与えられたものと判断する。これを感覚の投射 projection という。感覚のこの性質によって刺激の位置および部位を定めることができる。この性質は,受容器の存在する受容面と感覚野との間に整然とした場所対場所の結合関係が存在するからである。このことを感覚野に部位再現topographic representation(皮膚感覚の場合には体部位再現 somatotopy,視覚の場合には視野再現 visuotopy または網膜部位再現retinotopy)があるという。ある強さの刺激が感覚を起こすためには,ある広さ以上の面積を刺激する必要がある。この面積を面積閾といい,ある面積以内では刺激の強さ I と面積閾 A との間に I×A=一定の関係が成り立つ(これをリッコーの法則 Ricco’s law という)。同一種の刺激を二つの異なった2点に与えた場合,2点を分離して感ずることができる。しかし2点間の距離を小さくしていくと,ついには2点を2点として区別できなくなる。弁別しうる2点間の最小の距離を二点弁別閾または空間閾という。
(3)感覚の時間的特性 刺激が感覚を起こすのには,ある一定時間以上受容器に作用しなければいけない。この最小作用時間を時間閾という。例えば光の感覚では,光の強さ I と時間閾 T との間には,ある時間範囲内において I×T=一定の関係が成り立つ。これは光化学反応におけるブンゼン=ロスコーの法則に相当するものである。閾上の感覚刺激を与えても,その強さに相当する大きさの感覚が生ずるまでには,ある時間の経過が必要である。すなわち感覚はしだいに増大(漸増という)する。また刺激を止めたときも,もとの状態に復帰するまで感覚は漸減する。刺激を止めた後に残る感覚が残感覚 aftersensation で,その性質が初めの感覚と同じ場合,陽性残感覚,反対のとき陰性残感覚という。同じ刺激を反復して与えるとき,その周期が十分短いとき,個々の感覚は融合して,ある一定の大きさの連続した感覚となる。例えば点滅する光を見たとき,その点滅の周期が十分短いと,もはや点滅の感覚はなく,連続した一様な明るさの光として感じられる。この現象の起こる最小の点滅頻度を臨界融合頻度 criticalfusion frequency(略して CFF)という。
(4)感覚の感受性の変化 同じ刺激を続けて同じ受容器に与えているとき,感覚の大きさは順応によってしだいに低下していく。触覚は順応の速い感覚である。身体を動かさない限り,着衣の感覚が失われるのはこの性質による。このほか,感覚にみられる特殊な現象に対比 contrast といわれる現象がある。例えば一定の明るさの灰白色の小さい紙面の感覚的明るさは,その紙を黒い大きな紙の上に置くときより明るく(白く)見えるし,もっと白い紙の上に置くときは暗く見える。この現象を同時または空間対比 simultaneous or spatialcontrast という。灰白色の紙が大きいときは,黒い紙と接する部分が中央の部分よりより白く見えるし,また白い紙と接する場合はより黒く見える。この現象を辺縁対比 border contrast という。また,白い紙を見て次に黒い紙を見ると黒い紙はいっそう黒く見え,黒い紙を見て次に白い紙を見ると白い紙はいっそう白く見える。この現象は継時または時間対比 successive or temporal contrastといわれる。
[感覚系ニューロンの受容野]  微小電極を感覚系のいろいろな部位に刺入して,ニューロンの活動を記録するという方法(微小電極法)の導入により,神経系が感覚情報を符号化(コード化)する機構についての研究がひじょうに進歩した。研究成果のなかで最も重要な発見は受容野ということである。例を視覚にとろう。1本の視神経繊維からインパルスを記録する。繊維により光で網膜を照射すると,インパルス頻度が増すものと,逆に減り,光を消したとき増すもの,および照射の開始と終了時に一過性に頻度を増すものがある。第1のような反応を ON 反応,次のものを OFF 反応,最後のものを ON‐OFF 反応という。照射面積を直径100μmくらいに小さくすると,網膜の特定の範囲を照射したときのみしか反応しない。この範囲はほぼ直径1mmくらいである。このように一個の感覚系ニューロンの放電に影響を与える末梢受容器の占める領域を,そのニューロンの受容野 receptive field という。ネコやサルの視神経繊維(または網膜神経節細胞)の受容野は,ON 領域と OFF 領域が同心円状に配列した構造をしている。中心部が ON 領域でそれを取り巻く領域がOFF 領域である受容野を ON 中心 OFF 周辺型,これと逆の配列をしているものを OFF 中心ON 周辺型という。一般に受容野の中心部と周辺部とは互いにその作用を打ち消し合うように働くため,受容野全体を覆う光刺激に対しては反応は弱く,中心部のみを照射するときは最も強い反応が得られる。このような中心部と周辺部の拮抗作用は網膜の神経網内に側抑制または周辺抑制の機構が存在することによるもので,辺縁対比の神経機構と考えられる。視覚系では脳幹の中継核である外側膝状体のニューロンの受容野も視神経繊維のものと本質的には同じものであるが,大脳皮質の第一次視覚野ではニューロンの受容野の性質は一変する。すなわち,視覚野ニューロンの受容野は一般に方形状で,長軸方向に伸びた細長い ON 領域と OFF 領域から構成されている。したがって受容野全体を覆う光に対しては,皮質ニューロンはまったく反応しない。細長い ON 領域のみを覆う線状の光に対して最大の反応を示す。つまり,このような受容野をもつ皮質ニューロンは,受容野の軸の方位に一致し,受容野のON 領域のみを覆うスリット状の光に選択的に反応するという特性をもっているということができる。このような方位選択性が皮質ニューロンに共通にみられる性質である。皮質ニューロンの受容野は,ON 領域と OFF 領域がはっきりわかるもの(単純型)ばかりでなく,これらの領域がはっきりしない複雑型,さらに受容野の両端に抑制帯がある超複雑型が区別される。いずれにしても皮質ニューロンは,自分の受容野の性質に従って,特定の条件に合う刺激を選択する性質をもっている(これを特徴抽出機能という)。視覚野が行ったこのような分析結果は,さらに高位の皮質中枢(連合野)に転送され,視覚情報の異なった側面についての分析と統合が異なった部位でなされている(分業体制)らしいことが,最近の研究により明らかになりつつある。サルの上側頭溝にある皮質ではヒトやサルの顔に特異的に反応するニューロンのあることが報告されており,また19野の一部では特定の色に選択的に反応するニューロンのあることが報告されている。他の感覚についても,皮質の感覚野では感覚刺激の特徴抽出を行うニューロンのあることが報告されている。オペラント条件づけの方法と微小電極法を駆使することにより,最近は感覚よりはむしろ知覚についての神経機構を解明すべく努力がなされている。⇒神経系
                        小川 哲朗
【感覚器官 sensory organ】
 体の外部または内部から与えられた刺激を受容して興奮し,その興奮を中枢神経系側(求心側)に伝える器官を感覚器官という。一般に多数の受容器の集合よりなる。感覚器官は,適当刺激を選択したり,刺激を効率よく感覚細胞に伝えるのにつごうがよい構造をしていたり,そのための付属装置をもつ。例えば目のレンズや虹彩,耳の鼓膜や耳小骨などがこれに相当する。単純に見える昆虫の感覚子でも,クチクラ装置は,受容される刺激の種類によりひじょうに異なる。例えば嗅感覚子ではにおい分子がクチクラを通過するための嗅孔が数多くクチクラ壁に見られるが,味感覚子では味溶液は通常一つの味孔により感覚細胞の受容部と接触している。
 感覚器の刺激受容部には,一般に感覚細胞と支持細胞が見られるが,ときには感覚細胞の興奮を求心側に伝えていく二次神経細胞や三次神経細胞が存在することもある。また,脊椎動物の味蕾(みらい)や嗅上皮のように,将来,感覚細胞に分化する基底細胞があることもある。
 感覚器官は,感覚の種類によって視覚器,聴覚器,味覚器,嗅覚器,平衡器,圧覚器,触覚器,痛覚器,温覚器,冷覚器,自己受容器などと呼ばれることもあるが,感覚器官が受容できる適当刺激によって分類されることもある。適当刺激により分類すると光感覚器,機械感覚器,化学感覚器,温度感覚器,湿度感覚器,電気感覚器などに分類できるが,さらに細分された場合には,例えば振動感覚器などと呼ばれることもある。適当刺激による感覚器の分類は,とくに,ヒトには見られず動物に特有な感覚器,例えば電気感覚器や赤外線感覚器,あるいは水生無脊椎動物の化学感覚器などを扱うときにつごうがよい。動物には磁気感覚をもつものもあると報告されているが,磁気感覚器は見つかっていない。また,感覚器官には,検知する対象が体から離れた遠い所にある遠隔感覚器と体表に接して起こる事象に関する接触感覚器の区別もある。前者には視覚器,聴覚器,嗅覚器などが含まれ,後者には皮膚感覚器や味覚器が含まれる。
 感覚器官の活動を知る指標として,感覚器官全体の電気的活動が用いられることがある。例えば網膜電図は目を光刺激したときに網膜に発生する電位変化を記録したもので,光刺激により最初に現れる電位変化は,脊椎動物では角膜側が負,無脊椎動物では正の波として現れ,感覚細胞の受容器電位の集合と考えられている。嗅粘膜をにおいで刺激したときに発生する電位を記録したものは嗅電図,昆虫の触角をにおいで刺激したときに発生する電位を記録したものは触角電図と呼び,においの有効性の検知などのために使われる。しかし,これらの電位変化は多くの種類の細胞の活動の集合であるので,感覚器官内の特定の細胞の活動を調べるためには微小電極法などの別の手段による観察が必要となる。
                        立田 栄光

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E.B.ティチェナー
ティチェナー

ティチェナー
Titchener,Edward Bradford

[生] 1867.6.11. サセックス,チチェスター
[没] 1927.8.3. ニューヨーク,イサカ

  

イギリス,アメリカの心理学者。 1890年オックスフォード大学卒業。 W.ブントに師事したのち,母校に戻り講師を経て,95年コーネル大学教授となる。実験心理学を発展させた構成心理学派の代表者。主著『実験心理学』 Experimental Psychology (4巻,1901~05) ,『体系的心理学』 Systematic Psychology (29) 。





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音声スペクトログラフ
音声スペクトログラフ

おんせいスペクトログラフ
sound spectrograph

  

ソナグラフともいう。音響,特に人間の声を目に見える形に記録して分析をする装置。まず音声を回転円板に磁気録音する。次にそれを繰返し再生しつつ帯域フィルタなどを用いて波形を周波数分析し,その周波数スペクトルの時間的変化を記録紙上に記録する。得られた記録をスペクトログラム (ソナグラム) といい,音声のいろいろな特徴が図形的に表示されている。特にフォルマントの構造やその変移,声の高さの変化などを知るのに使われる。フォルマントの濃淡模様はビジブルスピーチともいう。人間の声の分析や矯正に用いられるほかに,時間的に急激な変化をする振動の分析などにも使われる。なお,ソナグラフは元来商標名であるが,普通名詞として使われることがある。





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ソナグラフ
Sonagraph

音の構成(どのような周波数の音がいかなる強さを含むか)が時間とともにどのように変化するかを記録する装置。第2次世界大戦中に開発された音響分析器械で,発話における言語音声(音声学)のように,短い時間に次々にその構成要素が変わっていく音を分析するのには便利な装置である。正式には音声スペクトログラフ soundspectrograph,また通称単にスペクトログラフとも称し,これによって得られる図形をスペクトログラム spectrogram というが,しばしばその商品名であるソナグラフの名で呼ばれ,その図示をソナグラム sonagram という。
 図1は母音[a]のソナグラムを示している。ここでは横軸が周波数を,縦軸が音の強度を表示するデシベルdBの単位を表している。音波の性質は波の高さ(振幅)と単位時間内に生じる波の数(周波数)により決まる。振幅が大きく周波数が多くなるほど音は大きく聞こえ,それだけに費やすエネルギーつまり音の強さも大となる。こうした異なる音の相対的強さを表す単位がデシベルで1dBの違いは人間の耳で聞き分けられる強さの違いに相当する。そして20dBでは強さは100倍となる。いま帯域フィルターをかけて強さが強ければ濃く,弱ければ薄く記録するように仕掛けておくと図2のような英語の二重母音[a㏍]の音声ソナグラムができる。ここでは縦軸が周波数を,横軸が時間を示している。図面に4本の横縞が浮き出ているが,これらはそれぞれの周波数で示された付近にその音の特徴をなす強さ,すなわち高い振幅が生じていることを意味する。下から第1,第2,第3,第4フォルマントと名づけられ,重要なのは第1フォルマント(F1)と第2フォルマント(F2)である。前半の[a]では,710Hzと1100Hzあたりに,後半の[㏍]では,400Hzと1900Hzにフォルマントが位置している。そして100ミリセカンド msec(1秒の1000分の1)あたりから2本のフォルマントが離れていく。つまりこのようにして舌の移動するようすが図表の上でとらえられるのである。なお細い縦線は声帯振動により音声が細かく区切られていることを表す。声道には舌の盛上りにより舌の前部と後部に二つの共鳴室ができる。[㏍]では前の共鳴室が小さく後の共鳴室が大となるため,F1は低い周波数に F2は高い周波数に現れる。[a]では逆に前の共鳴室が大で後の共鳴室が小となるため,F1は高い周波数に F2は低い周波数に現れる。すなわち[㏍]では F1と F2の間隔がひらき,[a]ではせばまる結果となる。このように F1と F2は舌の前と後の共鳴室から生じる共鳴音の大小に反応している。
 いまやソナグラフは単に言語音声を音響的に分析するためのものではなく,ソナグラフの原理を逆転させることにより,ソナグラムに印された図形を読み取って音声に変えることもできる。ソナグラムにフォルマントを記入することにより合成音(音声合成)を作成することが可能となっているし,コンピューターにソナグラフを結合させて言語音声を識別させたり発音させたりする研究も進んでいる。                       小泉 保

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ビジブルスピーチ
ビジブルスピーチ

ビジブルスピーチ
visible speech

  

(1) 音声記号の一方式。視話 (法) ともいう。調音の位置や様式を象徴する新しい記号を字母的に用いる。 A.ベルがその著"Visible Speech" (1867) で説いたのが有名。 H.スウィートはそれを改良して「器官的記号」 organic notationと名づけた。 (2) 音声スペクトログラフによって音声を目に見えるように記録する方式。聾唖教育などに役立たせる目的でアメリカで開発されたが,むしろ音声学の研究に役立っている。





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音声記号
音声記号

おんせいきごう
phonetic sign

  

言語音を音声学的に表記するための記号。発音記号などともいう。言語音の記述や研究のため,また教育や学習のために用いられる。その記号としての性格から大きく3種類に分けられる。 (1) 単音を主としてローマ字ないしロシア文字で表わすもの。原則として1単音を1字母で表わすので音声字母ともいう。国際音声字母に代表され,最も普通に用いられている。 (2) 単音を従来の文字とは異なる新しい記号で字母的に表わすもの。 A.ベルのビジブルスピーチや,H.スウィートの器官的記号などがある。 (3) 単音を発する際の音声器官の働きを,いくつもの記号を用いて分析的に表わすもの。 O.イェスペルセンの非字母的記号や K.L.パイクの機能的非字母的記号などがある。





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音声記号
おんせいきごう

言語音声を表す記号。発音符号,発音記号,音標文字ともいう。ある調音活動によって発せられる音声の最小単位を単音 phone と呼び,この単音を表すのが音声記号である。この場合二つの方式がある。代表的単音に一つの記号を割り当てる字母的表記と,単音をその調音の要素に分解して表す非字母的表記に大別できる。
[字母的表記]  字母的表記では国際音声学協会の定めた国際音声字母 InternationalPhonetic Alphabet(略して IPA)がもっとも広く用いられている。これは世界中の諸言語の音声を統一された規格で表記することと,外国語の習得に役立つことを目的としている。表の国際音声字母表では,調音の方法を示す縦の区分と調音の位置を示す横の区分とが交差した枠の中に,音価を表す音声記号が配置されている。IPA はフランスの音声学者 P. パシーが設立した国際音声学協会において1888年に採択されたもので,その後少しずつ修正が加えられてきた。記号はラテン文字を主体とし,これにギリシア文字などで補足されている。これら記号に音の強さ,高さ,長さを表す符号を付したものを簡略表記broad transcription とし,さらに他の補助記号を添えて音声の細かい違いを表したものを精密表記 narrow transcription という。後者は言語学の専門的研究のために使用される。例えば,英語の eighth〈第8〉は,簡略表記ならば[eitド]であるが,精密表記になると[eポマド]と,[t]音が歯音[ド]に引き寄せられて歯の裏で調音されるため歯音化の補助記号勸がつけられ,母音[i]より低めの変種[ポ]が用いられている。なお,アメリカやヨーロッパの言語学会では,特定の言語の音声を表記するため別種の音声記号を使用することがある。アメリカの言語学関係者は有声摩擦音[ミ]を[ム]で,無声硬口蓋歯茎摩擦音[イ]を[$]で表している。またロシアではロシア文字が利用され,[p]を[п],[b]を[б]としるしている。
 このほかに特別な記号を字母的に用いたものに H. スウィートの器官的記号がある。彼は前舌高母音[i]に キ,中母音[e]に メ,低母音に モ の記号をあて,閉鎖音[p]を勹,[t]を匆,[k]を匈と表している。さらに高めを甸,低めを匍,後よりを匐のような補助記号で指示している。例えば,英語のtake[teik]〈とる〉は,匆メキ匍匈と表記される。これにより音声の多様な変種を細かく表すことはできるが,印刷にも手がかかるし,記憶するのも容易でない。
[非字母的表記]  音声の分析的表記としては次の3種がある。
(1)非字母的記号 デンマークの音声学者 O. イェスペルセンはある音声を発する場合に見られるすべての発音器官の動きを記述しようとしている。彼は上顎に付着する上位調音器官にラテン文字を振り当て,b で上唇,d で上歯の先,f で歯茎を表し,下顎に付着する下位器官にはギリシア文字を用い,α で下唇,β で舌先,γ で舌面,δ で軟口蓋,ε で声帯を表すこととし,上位と下位の記号の間に数字をはさんで両者の接近の度合を示すことにしている。例えば,歯茎音の[t]は α”β0fγ”δ0ε3ζ+と表記される。これは,α(唇)は動かず(”),β(舌先)と f(歯茎)の間で0(閉鎖)が形成され,γ(舌面)は働かず(”),δ(軟口蓋)は咽頭壁に0(接触し)空気を鼻腔へ通さない,ε(声門)は3に開いて声帯は振動せず無声,ζ(肺)から+(呼気)が送られてくることを意味する。この非字母的記号は諸言語の類似した音声の違いを示すのに便利である。例えば,[s]音であるが,フランス語では舌先が前歯に触れるので β1ef,ドイツ語では少し後へずれて β1fe,英語では歯茎を用いて β1f のように比較できる。そこで,音声学の研究書はこの表記方式を部分的に用いているが,音声連続を表すのには適していない。
(2)機能的非字母記号 アメリカの音声学者K. パイクは,ある音声を調音するときの構えにおいて気流がどの器官にどのように作用するかを分析している。例えば,[t]音はMaIlDeCVveIcAPpaatdtltnransfsSiFSs と記述される。これは,発音源となる発出機構(M)が気流(a)であり,その起こし手(I)は肺(l)であること,気流の方向(D)は呼気(e)により,調節機構(C)としては弁的狭窄(V)すなわち軟口蓋(v)が上がって鼻腔通路を閉じ,食道通路(e)もふさがっていて口腔内に空気がこもる。気流をさえぎる度合(I)は完全閉鎖(c)で,重要調音(AP)としての調音点(p)は歯茎(a)で下位調音器官(a)は舌先(t)による。調音の程度(d)は長さが長く(tl),調音の様式(t)は尋常(n)であり,調音運動の相対的強さ(ra)も尋常(n)で,下位器官の形(s)は扁平(f)に伸びている(s)。単音(S)としては聞こえず(i),音節中における単音としての機能(FS)は音節形成的子音類(s)である。この方式は調音の機構を多角的に分析してはいるが煩雑に過ぎるきらいがある。
(3)生成音韻論では,単音を調音的音声特徴に分解し,各特徴の有(+)無(-)による行列式の形で表す方法がとられている。図1,図2にみる規準により,舌先を用いるものが[+舌頂的](+coronal),用いないものが[-舌頂的](-coronal)とされ,歯茎より前の器官を用いるものが[+前方的](+anterior),硬口蓋歯茎より後の器官を用いるものが[-前方的](-anterior)と区分される。母音では,前舌が[-後](-back),後舌が[+後](+back),そして高母音が[+高](+high),低母音が[+低](+low)の特徴をもつ。さらに母音的vocalic,子音的 consonantal,円唇 round,張りtense,こえ voice,鼻音 nasal の特徴が認められ,継続的 continuant の特徴が加えられる。継続的でない[-continuant]は閉鎖を行う音のことで,摩擦音や母音は[+continuant]に属する。以上の特徴をもつものを+,もたないものを-で表して一覧表を作れば図3のようになる。こうした音声表記が生成音韻論の分析に用いられている。要するに各音声は本来こうした音声特徴の集合であって,いずれかの特徴の+と-の違いにより音声は相互に区別できるはずである。したがって,音声はひとつの字母記号によって代表されるべきものではないとしている。⇒音韻論∥音声学
                         小泉 保

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H.スウィート
スウィート

スウィート
Sweet,Henry

[生] 1845.9.15. ロンドン
[没] 1912.4.30. オックスフォード

  

イギリスの言語学者。音声学と英語学の研究に従事し,科学的英語学の基礎を築いた。音声学の分野では大陸の諸学者とともに一般音声学の確立に努力した功績が大きく,言語音声の表記のために A.ベルのビジブルスピーチを改良した「器官的記号」 organic notationを考案する一方,ローマ字を基礎とする2種の記号 broad Romic (簡略ローマ字式) と narrow Romic (精密ローマ字式) とを考案した。それらは現在の国際音声字母の基礎となる一方,前者 broad Romicは現在の音韻表記のさきがけとなった。英語学の分野では特に古期英語の研究に専念し,多数の古期英語,中期英語の文献を編集した。主著に,『音声学便覧』 Handbook of Phonetics (1887) ,『音声学入門』A Primer of Phonetics (92) ,『英語の音声』 The Sounds of English (1908) など音声学の著作のほか,『古英語読本』 Anglo-Saxon Reader (1876) ,『新英文法』 New English Grammar (2巻,91~98) ,『言語史』 The History of Language (1900) などがある。





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スウィート 1845‐1912
Henry Sweet

イギリスの音声学者,英語学者,比較言語学者。19歳でドイツに留学,比較言語学の方法論を修め,後オックスフォード大学に学ぶ。天与の音声学的才能と洞察力により現代音声学の開拓者の役割を果たすとともに,古英語(アングロ・サクソン語)の研究に確実な基礎を与え,中・近代英語の研究とあいまって,英語史,とくにその初期に,近代音声学・言語学の角度から光を当てた。著書《音声学教本 A Handbook of Phonetics》(1877),《英語音声史 A History of English Sounds》(1874),《英語の音声 The Sounds of English》(1908)は音声学の名著である。彼の考案した〈簡略ローマ字音声表記法 Broad Romic〉は彼の音素観を反映している。《アングロ・サクソン語読本An Anglo‐Saxon Reader》(1876),《最古英語文献 The Oldest English Texts》(1885),《新英語文典 A New English Grammar》2巻(1892,98),《言語の歴史 The History of Language》(1900)等に彼の古英語,英語史,文法学の卓抜な学殖が示される。彼の学問が時代に先がけていたことや彼のかたくなな性格のゆえに,大学にはいれられず教授の職につくことなく世を去った。
                      大束 百合子

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フォルマント
フォルマント

フォルマント
formant

  

音響的にある音の音色を特徴づけ,音色の異なる他の音から区別させる周波数成分,またはその集り。音声などの各周波数帯における強さの分布として表わす。一般に有声音は,75~300サイクルの基本周波数 (基本音,基本波) と無数の高調波 (倍音) に分析されるが,声道の共鳴のために特定の成分だけが強められ,特有の言語音として聞える。音声スペクトログラフにかけるとその共鳴部分が濃い縞紋様として現れる。それを低いものから順に第1フォルマント,第2フォルマント…と呼ぶ。母音の聞き分けには特に第1,第2フォルマントが重要な役割を果している。なお,フォルマントは声のピッチ (高さ) とは独立に,それぞれの音 (特に母音) に一定しているものである。





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[ブリタニカ国際大百科事典 小項目版 2008]


フォルマント
formant

声道(声門から上の咽頭,口腔,鼻腔を含む部分)内の空気の共鳴周波数に対応する倍音群。母音や鼻音,流音は舌や顎を移動させて声道の形を変えることにより独自の共鳴室をつくる。こうした共鳴室に応じて母音は三つの固有の倍音すなわちフォルマントをもつ。音声分析装置ソナグラフにより図示されたソナグラムには,周波数の縦軸に沿って3本の濃い線が現れる。これを下から第1,第2,第3フォルマントと呼ぶ。重要なのは第1フォルマント(F1)と第2フォルマント(F2)であって,これらが母音の音質を決定する。
 F1は〈イ,エ,ア〉と高くなり,〈ア,オ,ウ〉と低くなる。これは舌の位置が高くなるほど口蓋に近づいた舌の前の部分に形成される共鳴室が小さくなり,低くなるほど共鳴室が大になるからで,共鳴室が大きくなれば周波数は低くなり,共鳴室が小さくなれば周波数は高くなる。
 また,F2は〈イ,エ,ア,オ,ウ〉の順に低くなる。これは盛り上がった舌の後部に咽頭を含めて形成される共鳴室の大きさに対応している。⇒音声学[音響音声学]               小泉 保

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調音
調音

ちょうおん
articulation

  

構音ともいう。言語音声は,肺からの呼気に対し声門が働いて声や噪音を出し (これを「喉頭調音」ともいう) ,それに対して声門より上の音声器官 (これを「調音器官」という) が共鳴室の作用をして音色を変えたり,噪音を加えたりすることによって生じる。この調音器官の,音声を発する働きを調音という。[t]における歯裏や歯茎のように,調音の行われる個所を「調音点」,その範囲が広いときは「調音域」という。そこに働きかけをする舌先などを「調音者」という。その調音の仕方が破裂 (閉鎖) か摩擦かなどを「調音様式」という。その調音点がほとんど同時に2ヵ所にあるものを「二重調音」という。[ kw ]は軟口蓋での閉鎖と唇の丸めがある二重調音である。したがって kw →pの変化がよく起る (例: *kwo -「だれ,何」→ギリシア語 poos「どんな」) 。





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声門
声門

せいもん
glottis

  

喉頭部には言語音に欠くことのできない声帯があり,その声帯の間の通路を声門という。声帯は水平に前後に張られた左右一対のひだである。その両声帯間の通路を声帯声門という。声帯のうしろの部分には披裂軟骨があり,この軟骨間の通路を軟骨声門という。この2種の声門は独立に開閉して違った種類の音を出す。両方開いているのは「息」の状態,両方閉じているのは「声門閉鎖」の状態,軟骨声門だけが開いているのは「ささやき」の状態。軟骨声門が閉じ,声帯声門がかすかに開いており,そこを呼気が通り抜けるときに規則的に声帯が振動をするのが「声」の状態である。





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言語音
ささやき
ささやき

ささやき
whisper

  

声帯声門が閉じ,軟骨声門が開いている状態,およびそのような声門の状態で発せられる音をいう。「息」や「声」と対立する。一般にいう「ささやき声 (で話す) 」はこれと異なる。ささやき声で話すと,普通に話したときの「声」 (→有声音 ) だけが「ささやき」になるにすぎず,「息」 (→無声音 ) はそのままの状態を保つ。したがって「蚊[ka]がいる」と「蛾[a]がいる」は,ささやき声でも区別がつく。「ささやき (音) 」は,声がないという意味で,息の音とともに無声音の一種である。声門全体が左右からせばまるささやきもあり,これを「弱いささやき」として,先の「強いささやき」から区別することもある。





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[ブリタニカ国際大百科事典 小項目版 2008]
無声音
無声音

むせいおん
voiceless sound

  

調音の持続部において声帯の振動を伴わない音。有声音の対。ただし声帯の振動を伴わなくても,声門はいろいろの形をとりうるので,普通の呼気の状態で出る「息の音」,および「ささやき音」,さらにはその中間などに分けられる。日本語 (東京方言など) では,パ行の[p],タ行の[t][t∫][ts],サ行の[s][∫],カ行の[k],ハ行の[h][][Φ]などで概略的に表記される音が無声音である。なお,普通有声の音が無声音として現れる現象を無声化といい,[。]で表わす。たとえば[ksa] (草) など。





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無声音
無声音 むせいおん 発音するとき声帯(→ 喉頭)の振動をともなわない音。日本語のカ行、サ行、タ行、ハ行の子音など。

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有声音
有声音

ゆうせいおん
voiced sound

  

調音の持続部において,同時に声帯の振動を伴う音。特に子音をさす。無声音の対。日本語 (東京方言など) ではバ行の[b],マ行の[m],ワ行の[w],ダ行の[d] (ダ,デ,ド) と[dz] (ヅ,ズ) ,[d] (ヂ,ジ) ,母音間のザ行に普通現れる[z]と[] (非母音間では[dz]と[d]) ,ナ行の[n]と[],ラ行の[r],ヤ行の[j],ガ行の[]と[]と概略的に表記される音,それと撥音のンにあたる各種の音,および無声化していない母音が有声音である。なお,持続部の前半ないし後半のみに声帯の振動を伴う音は「半有声音」といって,[。]で表わす。英語の[e] ([bed]とも書く) など。





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単音
単音

たんおん

  

音声学の対象とする音声の最小単位。調音器官が一定の位置をとっているか,一定の運動を繰返している瞬間に生じる音,および気流の通路のより広い位置からその位置へ,またその位置からより広い位置へわたる際に生じる音をいう。持続部のある単音を「持続音」という。「蚊」 (=[ka]) の2つの単音[k][a]はその例。また,「矢」 (=[ja]) の[j]のように,常に動いていて持続部の認められない単音もあり,「わたり音」という。すなわち,前後の単音とは関係ない独立の運動をしている際に出る音も単音である。ただし,音声の単位といっても,音声そのものは連続体なのであり,それを単位に切ること自体,音素を背景にしていることになる。したがって,両者は相互に該当し合う関係としてとらえるべき性格をもっている。なお,単音は,具体的な1回1回の発話のレベルでも,また,「日本語の単音[k]は…」のように社会習慣的音声のレベルでも用いられることがある。





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[ブリタニカ国際大百科事典 小項目版 2008]


単音
たんおん phone

音声学的にみて言語音声を構成する最小の単位。[kami]〈紙〉は[k][a][m][i]という四つの単音に分解でき,それぞれが固有の調音的特徴をもつ。[k]では後舌が軟口蓋に接し,[a]では舌面が低く下がる。[m]では両唇が接合して軟口蓋が下がり空気は鼻へ抜ける。[i]では前舌の部分が硬口蓋へ向かって上がる。だが[katイi]〈価値〉の[tイ]であるが,舌端が歯茎後部に接し[t]の閉鎖を作り,これをゆるやかに開放すると硬口蓋歯茎摩擦音[イ]が生じる。この[tイ]は閉鎖音[t]と摩擦音[イ]が接合したものととらえれば二つの単位に分解できるが,閉鎖と開放を一つの調音活動と見なせば,閉鎖音[t]が[イ]の音として開放されることになり単一の単位[∴]と考えられる。このように単音の区分は必ずしも明確でない。生成音韻論では言語音声の流れの中でこれを構成する主要部分を分節音segment と呼び,発話の音の流れを分節音に分けることを分節 segmentation と称している。閉鎖音は,上顎に付着する上位器官と下顎に付着する下位器官が接触する〈閉鎖〉の段階と,この閉鎖がある時間続いて肺から出てくる空気をせき止める〈持続〉の段階,それに接触した上下の器官を引き離して破裂音を発する〈開放〉の段階から成る。開放をゆるやかに行って摩擦音を立てれば先の[tイ]のような破擦音になる。また開放の際に後続母音の調音において声帯振動をおくらせると,声帯が振動しない部分で気音が生じる。英語の cat[k’ずt]〈ネコ〉の[k’]音は気音[’]を伴い有気音(帯気音)と呼ばれる。この場合にも[k’]を変形された閉鎖音と見れば一つの単音と考えられる。また[kanjセビ]〈加入〉の[nj]であるが,歯茎鼻音[n]の後ろに硬口蓋半母音[j]が続くとすれば二つの単音に分析できる。しかしこれを硬口蓋鼻音[カ]と受け取れば一つの単位と見なされる。英語の二重母音に関して,eight[e㏍t]〈8〉では舌が前舌中母音[e]の位置から出発してわずかに低め高の[㏍]に向かって移っていく。これも一つの舌面の上昇運動と考えれば二つの単音に分割しにくい。以上の現象を音響面で調べれば,[tイ]ではスペクトログラム(ソナグラフ)に閉鎖の空白に続いて摩擦のかすれが現れる。有気[k’]音では閉鎖の空白の後にわずかに気音の乱れが見られる。二重母音[e㏍]では第1と第2フォルマントの開きが少しせばまっていく。日本人は[tイi]の[tイ]を一つの子音音素と感じている。一般に言語音声を構成する単音の数と音素の数は必ずしも一致しない。⇒音素
                         小泉 保

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