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言語学・ゲームの結末を求めて(その12) [宗教/哲学]

橋本進吉
橋本進吉

はしもとしんきち

[生] 1882.12.24. 敦賀
[没] 1945.1.30. 東京

  

国語学者。 1906年東京帝国大学言語学科卒業。 09年から 18年間同大学国語研究室の助手をつとめ,27年助教授,29年教授。 34年文学博士。 43年定年退官。国語学会初代会長。厳密な学風で知られ,精緻な文献批判に基づく国語学を築き上げた。その中心は国語の音韻史と文法研究にある。上代特殊仮名遣を解明して上代語,上代文学の研究に大きな恩恵を与え,この奈良時代の音韻体系,キリシタン教義の研究により明らかにした室町時代末期の音韻体系および現代語の音韻体系の3つを柱にして音韻史を記述した。文法研究では文節論を基礎にした形式中心の文法体系を打立てた。主著『古本節用集の研究』 (1916,上田万年と共著) ,『校本万葉集』 (25冊,24~25,増補普及版 10冊,31~32,佐佐木信綱らと共編) ,『文禄元年天草版吉利支丹教義の研究』 (28) 。ほかに古文献の複製や学会の発展にも力を入れた。『橋本進吉著作集』 (10巻,50~83) が刊行されている。





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橋本進吉 1882‐1945(明治15‐昭和20)
はしもとしんきち

国語学者。福井県敦賀(つるが)市に生まれ,1906年東京帝国大学文科大学言語学科を卒業。同大学助手,助教授を経て,29年教授,上田万年(かずとし)のあとをついで国語学科の主任教授となり,43年に定年退官。国語学会初代会長を務めた。日本語の歴史と文法の研究に大きな業績を残したが,最も著しいものは音韻史の研究で,いわゆる〈上代特殊仮名遣い〉を解明し,上代語研究に大きく貢献した。また,天草版《どちりなきりしたん》によって室町時代末,江戸時代初めの音韻組織の再建を試みた。文法研究では語の形態を重んじ,文の構成要素としての〈文節〉の概念を中心に新しい文法体系をたて,学界・教育界に大きな影響を与えた。この,いわゆる〈橋本文法〉は,のちの文法教育の主潮となっている。おもな著作に《古本節用集の研究》(上田万年と共著),《文禄元年天草版吉利支丹教義の研究》《新文典別記》《国語学概論》《古代国語の音韻に就いて》などがある。                      山田 武

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橋本進吉
橋本進吉 はしもとしんきち 1882~1945 国語学者。福井県敦賀の生まれ。1906年(明治39)東京帝国大学文科大学言語学科を卒業。09年東京帝国大学文科大学助手、27年(昭和2)同助教授、29年同教授。43年退官。日本語の歴史的研究について多大の業績をあげたが、とくに音韻(→ 音韻論)の歴史の研究で有名。いわゆる「上代特殊仮名づかい」の研究によって、上代語の研究に大きな影響をあたえた。また、新しい文法体系を提唱し、彼の文法は「橋本文法」として、日本の学校でおしえられる国文法の指針となっている。

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上代特殊仮名遣
上代特殊仮名遣

じょうだいとくしゅかなづかい

  

奈良時代 (上代) の万葉がなの用法において,後世のいろは 47文字のかなでは区別されない「キ,ヒ,ミ,ケ,ヘ,メ,コ,ソ,ト,ノ,モ (『古事記』で) ,ヨ,ロ」およびその濁音「ギ,ビ,ゲ,ベ,ゴ,ゾ,ド」にそれぞれ2種類あり,整然とした使い分けのされている事実をさす。通例その2類の別を甲類,乙類という。いろは 47仮名でも区別されていないかなの使い分けなので「特殊」仮名遣の名がある。本居宣長がその一部に気づき,石塚龍麿がその全体的な研究を行なったが,それをあらためて組織的に研究し,それが当時の発音の区別に基づくものであることを明らかにしたのは橋本進吉である。甲類,乙類の書き分けの事実は問題ないが,その音韻論的解釈およびその音価推定には諸説がある。解釈上の最も大きな相違点は,甲乙の対立をすべて母音の対立とみて8母音を立てる (/i,e,a,o,u,,,/) 説と,イ列,エ列の甲乙は子音の口蓋化の有無の対立とみて6母音を立てる (/i,e,a,o,u,/) 説 (服部四郎) ,そしてさらにオ列の甲乙は音韻的に区別がないとして5母音/i,e,a,o,u/を立てる説 (松本克己) とがある。8母音説はイ列,エ列の乙類の母音をそれぞれ ,で翻字したローマ字をそのまま音価と誤認したのが起源のようで,言語学的根拠はないといわざるをえない。橋本・有坂秀世は8母音説のようにみえるけれども,イ列,エ列の乙類を二重母音とするもので,音韻論的解釈によっては有坂の説は6母音説になりうる。5母音説は,少数ではあるが,明らかに存する/o/と//の対立を無視する点,オ列甲類・乙類のかなの中国語原音に明瞭な区別のあるのを無視する点などで成り立ちがたい。





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上代特殊仮名遣い
じょうだいとくしゅかなづかい

奈良時代およびそれ以前の万葉仮名の使用に見いだされる,特殊な仮名遣い。平安時代の平仮名,片仮名では区別して書き分けることのない仮名〈き・ひ・み〉〈け・へ・め〉〈こ・そ・と・の・よ・ろ〉(《古事記》では〈も〉も)と〈え〉の13(《古事記》では14)と,それらのうち濁音のあるもの〈ぎ・び〉〈げ・べ〉〈ご・ぞ・ど〉の7に当たる万葉仮名に,甲・乙2類があって,語によってこの2類は厳格に区別して用いられた事実を指す。たとえば,〈き〉に当たる万葉仮名は,〈支・伎・岐・吉・企・枳・寸・来〉などの一群が〈き〉の甲類と呼ばれ,〈秋(あき)〉〈君(きみ)〉〈衣(きぬ)〉〈著(きる)〉などの〈き〉を表し,〈幾・忌・紀・奇・帰・木・城〉などの一群が〈き〉の乙類と呼ばれ,〈木(き)〉〈月(つき)〉〈霧(きり)〉などの〈き〉を表す。そして同じ語を表すのに,甲・乙どちらか一方の字群の字を仮名として用いて混同しなかった。また甲類の〈き〉が連濁を生じて〈ぎ〉になる場合は〈ぎ〉の甲類で表し,乙類の〈ぎ〉は用いない。このことから甲・乙2類は体系的な音の違いに対応して使い分けられたものと考えられる。さらに動詞の四段活用連用形のイ段の仮名はかならず甲類のものを用い,上二段活用の未然形,連用形,命令形はかならず乙類のものを用いる。四段活用の命令形の〈け〉〈へ〉〈め〉は甲類,已然(いぜん)形は乙類である。同様に下二段活用未然形,連用形,命令形のエ段の仮名はいずれもかならず乙類,上一段活用のイ段の仮名はかならず甲類である。このように秩序だった区別が,時と所と書き手を異にする文献に一定して行われた事実は,後世の仮名遣いとは性格の違うものであって,発音自体が当時異なっていたために区別することができたと考えられる。したがって,同じ段の甲類は同一性格,同じ段の乙類もまた同一性格をもっていたと解釈される。結局,母音の〈イ〉〈エ〉〈オ〉に2種類あって,違いはそれらが子音を伴って音節をつくるときにのみ現れ,母音一つの音節〈ア・イ・ウ・エ・オ〉の場合には区別がなかったと考えるべきであろう。以上の事実をさらに同一語(もしくは同一語根,さらにはより小さな意味単位)において観察すると,〈心〉の場合〈こ〉の乙類同士が結合して,甲類の〈こ〉を交えないという法則性なども解明される。後世の仮名遣いとは異なるから,特殊仮名遣いと呼ばれるが,その呼称は,この事実を発見,提唱した橋本進吉の命名である。この事実の発見の端緒は,本居宣長(もとおりのりなが)の《古事記伝》にあり,その門人石塚竜麿(たつまろ)の《仮字遣奥山路(かなづかいおくのやまみち)》に継承されていたが,真価を認められず,橋本の再発見に至って,ようやく学界への寄与が認められた。また,オ列の乙類の音を主軸にして考えられる音節結合の法則性の発見は有坂秀世,池上禎造らによるもので,日本語の系統論に新しい知見を加えた。そこからさらに甲乙2類の母音を含めた古代日本語の母音全体の体系性におよぶ研究が展開しているが,一つ一つの母音の性質の解釈や相互の関係については,なお確定的な説は立てられていない。⇒万葉仮名      山田 俊雄

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付属語
付属語

ふぞくご

  

単語の二大分類の一つ。自立語の対語。 (1) 橋本進吉の術語。それ自身単独では文節を構成しえず,常に他の自立語を伴って文節をつくるもの。辞ともいう。これはさらに活用の有無により,助動詞と助詞に分けられる。 (2) 服部四郎は,単語である付属語を,単語以下の接辞である接合形式と区別するための一般言語学的基準として次の3つをあげている。 (a) 職能や語形替変の異なる種々の自立形式につく場合。たとえば「行くだろう」「行かないだろう」「行っただろう」の「だろう」。 (b) 2つの形式の間に別の単語が自由に現れうる場合。たとえば「赤くない」は「赤くはない」「赤くもない」ともいいうる。このときの「ない」。 (c) 結びついた2つの形式が互いに位置を取替えて現れうる場合。たとえば「私にだけ」は「私だけに」と入替えられる。この場合の「に」「だけ」。これらの基準によると,橋本の付属語の一部が単語とは認められない接辞となる。





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付属語
付属語 ふぞくご 国文法の用語で、それだけでは具体的な意味がきまらず、単独で文節をつくることができない語のこと。付属語のうち、活用する語を「助動詞」、活用しない語を「助詞」とよび、付属語としては助詞と助動詞以外にはない。付属語ではない語は「自立語」といわれる。

言語学では、具体的な内容をあらわさず、主として文法的な機能をあらわす語を「機能語」とよぶ。国文法の付属語と、言語学の機能語は、ほぼ同じような性質をもっているといえる。助動詞は、事柄が成立する時点や様態、事柄に対する話し手の判断などをあらわすし、助詞は、事物の働き(格助詞)、複数の事柄の間にある関係(副助詞)、事柄に対する話し手の判断(終助詞)などの文法的な機能をあらわしているから、機能語と同様の意味をあらわしている。

ただし、国文法では、「走っている」「おいてある」のような表現でもちいられる「いる」「ある」などを「補助動詞」あるいは「形式動詞」として分類し、これらを自立語だとしている。しかし、これらの表現中の「いる」「ある」は、事柄が進行中であることや、事柄の結果の状態という、文法的な機能をあらわしている。したがって、補助動詞を付属語ではなく自立語として分類することには、言語学的には問題がある。

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服部四郎
服部四郎

はっとりしろう

[生] 1908.5.29. 三重,亀山
[没] 1995.1.29. 神奈川,藤沢

  

言語学者。 1931年東京大学文学部言語学科卒業。 43年文学博士。 49年東京大学教授。 69年名誉教授。 71年文化功労者。 72年日本学士院会員。 75~77年日本言語学会会長。 82年第 13回国際言語学者会議 (東京) 会長。 83年文化勲章受章。研究領域は広く,音声学のほか,アルタイ諸語,中国語,ロシア語,アイヌ語などに及ぶ。これらの研究を通し,言語の共時論的記述の方法と歴史比較研究の方法を深めた。また多くの言語学者を育てるとともに,アメリカの言語学を実地に適用しつつ批判的に紹介し,日本における言語学の樹立に努めた。主著『音声学』 (1951) ,『日本語の系統』 (59) ,『言語学の方法』 (60) など。





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服部四郎
I プロローグ

服部四郎 はっとりしろう 1908~95 言語学者。日本語、アイヌ語、アルタイ諸語などの記述的研究をおこなうと同時に、独自の一般言語学理論を確立することによって、日本の言語学を指導した。

三重県亀山市に生まれ、1931年(昭和6)東京帝国大学文学部言語学科を卒業したのち、36年まで大学院に在籍した。その間、旧満州国に留学して、アルタイ諸語の研究に従事している。42年より東京帝国大学文学部言語学科助教授、49年には教授となり、69年の定年退官までその職にあった。72年日本学士院会員となり、83年文化勲章を受章。

II 日本語を体系的に探究

服部四郎は、モンゴル語や満州語などのアルタイ諸語、およびアイヌ語、琉球語などの記述的研究を精密な方法をもちいておこなった。と同時に、日本語の音韻(→ 音韻論)や意味を体系的に記述するための理論を探究した。「音声学」(1951)や「音韻論と正書法」(1951)などの著作、論文集「言語学の方法」(1960)などは、現代でも日本の言語学の研究者にとって重要な参考文献である。古代日本語の音韻や日本祖語に関する論考、さらには琉球語と日本語の同系性の証明などの業績もある。日本の言語学に独自の性格をあたえ、世界的水準にまで高めるためにはたした功績は大きく、東京大学在任中だけでなく、退官後に設立した東京言語研究所においても多くの優秀な後進をそだてた。

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接中辞
接中辞

せっちゅうじ
infix

  

接辞の一つ。挿入辞ともいう。語根の内部に挿入されてさまざまの意味を与える。たとえば,タガログ語/su:lat/ (筆記) に対して/sumu:lat/ (書いた人) では/-um-/が接中辞。アラビア語/yiktib/ (彼は書く) ,/tiktib/ (彼女は書く) では,/k-t-b/が語根で/yi-/と/ti-/が接頭辞,第2音節の/-i-/が接中辞とみられる。セム語族,マレー=ポリネシア語族,アメリカインディアン諸語などには現在も生産力のある接中辞がみられるが,インド=ヨーロッパ語族では,ラテン語 iugum (くびき) に対する iungo (私は結ぶ) の-n- などに祖語時代の名残りがみられるにすぎない。この例では iug- が語根,iung- が語幹,-oが活用語尾とされる。 (→接尾辞 )  





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接尾辞
接尾辞

せつびじ
suffix

  

接辞の一つ。それ自身単独で発話されることがなく,常に語根,語幹,自立語 (または自立語に音形も意味もよく似た形態素 ) に後接して派生語を形成する形態素をいう。 (1) 「子供-たち」,(2) 「人間-的」,(3) 「高-さ」,(4) 「春-めく」などがその例。 (1) では,もとの自立語と品詞は同じままで,新しい意義特徴が加わっている。 (2) は漢語からの接尾辞であるが,もとの自立語とは文法的機能を異にしている。 (3) では,もとの形容詞 (またはその語根かつ語幹) から名詞を派生している。 (4) では,名詞から動詞を派生している。ただし,接尾辞を語幹と語尾に区別するとすれば,「-めく」の-meが語幹形成の接尾辞で,-kuが活用語尾となる。 cat-sや high-erも広義の接尾辞であるが,狭義では語尾である。なお,国語学では,接尾辞の代りに「接尾語」と呼ぶことが多い。





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接尾語
接尾語 せつびご 語のあとにつけて、語の品詞をかえたり、語があらわす意味に新しい意味をつけくわえたりする働きをする語。かならず他の語とともにもちいられ、語としての独立性をもたないことから、「接尾辞」とよばれて通常の語とは区別されることもある。

日本語の接尾語は種類が多い。「大きさ」「広さ」にみられる接尾語「さ」は、「大きい」「広い」という形容詞の語幹につけて名詞をつくる。「愛する」「罰する」にみられる接尾語「する」は、名詞のあとにつけて動詞をつくる。「心理的」「学問的」にみられる「的」は、名詞のあとにつけて形容動詞の語幹をつくる。「山田さん」「部長さん」にみられる「さん」は、固有名詞や役職などの名詞のあとにつけて、これらの名詞の人に対する敬意をあらわす。

接尾語の「さ」はすべての形容詞から名詞をつくることができるし、「する」も、ひじょうに多くの名詞から動詞をつくることができる。「的」は抽象名詞につけて形容動詞の語幹をつくるのが原則だが、最近では「私的には」「値段的には」のように形容動詞ではない表現もつくられるようになっている。このように、日本語の接尾語が新しい語をつくる力は大きい。

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派生語
派生語

はせいご
derivative

  

自立語に音も意味もよく似た語基に (派生) 接辞が接合してできている単語。「オ-すし」「ぼく-タチ」「見-サセ-る」,quick-lyなどがその例。派生は語形替変に比べて,各単語ごとの特性が強く,不規則な点が多いこと,品詞を変えることがある (quickと quick-ly) ことが目立つ。また日本語では一般に活用接辞 (る) のほうが派生接辞 (-サセ-) の外側につき,かつ「見る」とその派生語「見サセる」は同じ活用をする。





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形態音韻論
形態音韻論

けいたいおんいんろん

  

音韻論と形態論をつなぐレベル。語形替変および派生において,同一の形態素と認めうる諸形式における音韻の交替を研究する分野。そのような交替を示す音素,あるいはその交替を表示する抽象的単位を形態音素という。日本語の活用における/kacu/ (勝つ) ~/katanai/ (勝たない) の/c~t/,/kasita/ (貸した) と/toNda/ (飛んだ) の/t~d/や/kuni/ (国) ~/kuniuni/ (国々) の/k~/ (連濁) ,さらに /'ame/ (雨) ~/ ' amaasa/ (雨傘) の/e~a/などや,英語の複数を表わす形態素/s/ /z/ /iz/ (cats,dogs,roses) などが例。また,ウラル語族,アルタイ諸語などにみられる母音調和も形態音韻論的事実である。音韻論とはレベルが異なるものであり,形態音韻論的交替があっても,そのおのおのにおける音韻の対立は依然として保たれている。生成音韻論は,従来の形態音韻論と音韻論を合せたものにほぼ相当する。





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[ブリタニカ国際大百科事典 小項目版 2008]
形態音素
形態音素

けいたいおんそ
morphophoneme

  

形態,すなわち語形替変と語形成において,同一と認定しうる形態素において交替をみせる音素,あるいはその交替に基づいて立てた抽象的単位をいう。英語の knifeの単数形と複数形の交替 (または ) における/f~v/などがそれ。f/v,ないし代表形でFなどとも表わす。このとき なる形を設けて,この全体を形態音素という人もある。生成音韻論の基底表示 underlying representationは,この後者のレベルに近いものである。





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母音調和
母音調和

ぼいんちょうわ
vowel harmony

  

同一形態論的単位内の母音の配列の制限規則をさす。歴史的には,調音上の同化が原因と考えられる。ウラル語族やアルタイ諸語に顕著な現象。典型的な例はトルコ語で,/i,e,,; ,a,u,o/の8母音が,舌の調和 (男性〈奥舌〉母音と女性〈前舌〉母音は共存しない) を中心に唇の調和 (丸口母音は丸口母音にしか続かない) ,顎の調和 (語尾の母音は広母音と狭母音の間で交替を示さない) という規則に従う。 ev (家) ,at (馬) ,gz (目) ,buz (氷) に「の」を表わす接辞をつけると,ev-in,at-n,gz-n,buz-unと/-in~-n~-n~-un/ (顎の調和) ,複数の接辞をつけると ev-ler,at-lar,gz-ler,buz-larとなり/-ler~-lar/ (舌の調和) の形態音韻論的交替を示す。モンゴル語は男性 (広) 母音/a,o,u/と女性 (狭) 母音/(=e),,/が共存せず,中性母音/i/はいずれとも共存しうるという構造をなしている。トルコ語をはじめとするチュルク諸語が主としてもつタイプは「後舌・前舌母音調和」ないし「垂直的母音調和」という。モンゴル語のカルムイク語もこのタイプ。一方,(ハルハ) モンゴル語やツングース語のものは「広・狭母音調和」ないし「水平的母音調和」という。日本語も上代では母音調和の痕跡とされる現象がみられる。またアフリカ諸語やアメリカインディアン諸語のいくつかにも母音調和がある。





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母音調和
ぼいんちょうわ vowel harmony

語を構成する音声において,母音の間に働く調音的統制。一つの語を表す音声部分にあって,ある系列の母音のみが用いられる現象でウラル語族やアルタイ諸語などに見うけられる。母音調和には,(1)同一母音を用いる完全調和と,(2)同一特徴の母音を用いる部分調和とがある。
 (1)完全調和の例として,フィンランド語の入格語尾〈…の中へ〉がある。talo‐on〈家の中へ〉,muna‐an〈卵の中へ〉,tyttÅ‐Ån〈少女の中へ〉のように,語幹末の母音を繰り返してから‐n をつける。(2)部分調和としてフィンランド語では舌の前後の位置が調和の規準特徴となる。このため母音は,(a)前舌群/y,Å[φ],∵[a]/と,(b)後舌群/u,o,a[ソ]/に分かれ,両群は同一の単語内で共起することが許されない。したがって,語尾も前舌母音用のものと後舌母音用のものに分かれている。例:talo‐ssa〈家の中に〉では後舌群,kyl∵‐ss∵〈村の中に〉では前舌群の母音のみが現れる。前者には後舌用の‐ssa,後者には前舌用の‐ss∵ の内格語尾〈…の中に〉が付加されている。なお前述の母音のほかに,(c)中立群/i,e/がある。これらは本質的には前舌群であるが,後舌群とも結合することができる。tiet∵‐∵〈知る〉という動詞には,前舌用の第1不定詞語尾‐∵ がついているが,この語から派生した名詞形 tieto〈知識〉には後舌母音o が用いられている。
 ハンガリー語(方言)でも母音は同じく,(a)前舌群/‰[y],Å[φ],ズ/と,(b)後舌群/u,o,a[ギ]/,それに(c)中立群/i,e/の3グループに分かれている。例:後舌母音のみ tanul¬〈生徒〉,前舌母音のみ t‰kÅr〈かがみ〉,中立母音と後舌母音から ceruza〈鉛筆〉,中立母音と前舌母音から rÅvid〈短い〉。そして内格語尾〈…の中に〉では,前舌用が‐be,後舌用が‐ba である。例:ajt¬‐ba〈ドアの中に〉,t‰kÅr‐be〈かがみの中に〉。しかし向格語尾〈…の方へ〉では,asztal‐hez〈テーブルの方へ〉,ajt¬‐hoz〈ドアの方へ〉,t‰kÅr‐hÅz〈かがみの方へ〉と,非円唇用‐hez,円唇後舌用‐hoz,円唇前舌用‐hÅz と3種類が用意されていて,ここに非円唇と円唇という円唇性の規準が母音調和に加わっている。
 アルタイ系のトルコ語の母音では,前舌性と円唇性の規準特徴が厳しく守られている。トルコ語は前舌非円唇/i,e/,前舌円唇/Å,‰/,後舌非円唇/そ[セ],a/,後舌円唇/o,u/の8母音をもっている。このため属格語尾には,前舌非円唇用‐in,前舌円唇用‐‰n,後舌非円唇用‐そn,後舌円唇用‐un の4種類がある。例:ev‐in〈家の〉,gÅz‐‰n〈目の〉,kitab‐そn〈本の〉,kol‐un〈腕の〉。ただし,位置格語尾〈…に〉は前舌用‐de と後舌用‐da の2種類のみで前舌性の特徴だけが作用している。例:ev‐de〈家の中に〉,gÅz‐de〈目の中に〉,kitap‐ta〈本の中に〉,kol‐da〈腕の中に〉となる。
 ベーリング海峡の近くで話されている旧アジア諸語の一つチュクチ語では,母音が弱音(高母音)/i,u,e/と強音(低母音)/e,o,a/に分かれ,これに/ト/が加わっている。語幹にしろ接辞にしろ1語の中に強母音が現れれば他の母音も強に統一される。たとえば具格〈…で〉の場合,qora‐ta〈トナカイで〉(強),milute‐te〈うさぎで〉(弱)のように語幹の母音が具格語尾の母音を指定している。だが奪格形では,melota‐jpト〈うさぎから〉のように奪格語尾‐jpト の母音/ト/が語幹母音を強に変える。
 中期朝鮮語においても母音調和の支配が認められる。sarネm‐ネr〈人を〉,gトbub‐セr〈亀を〉のように陽の母音/a,o,ネ/と陰の母音/ト,u,セ/の区別があり,対格語尾に陽の語尾‐ネr と陰の語尾‐セrの2種が語幹の母音によって使い分けされている。
 古代日本語でも〈オ〉に甲類の/o/と乙類の/Å/の別があって,乙類の/Å/は/mÅtÅ/〈本〉のように甲類の/o/とは結合しないので,母音調和の痕跡ではないかと考えられている。要するに,母音調和は順行同化の一種と見なされるが,そこでは語幹内の母音がその後に同じ系列の母音を指定する働きをもっている。             小泉 保

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母音
母音

ぼいん
vowel

  

子音の対となる音であるが,音声学的に両者を截断することはかなりむずかしい。音節主音となるもの,きこえの大きいものなどの諸説があるが,口むろや咽頭の調音点で閉鎖や狭いせばめの起らない音,ただし,[h][]や半母音の[j][w]などは含まない,とする説が普通。しかし,結局はその言語において,音韻論的にみて母音にあたる音声であるかどうかという観点を導入しなければ決められない。 K.パイクは vowelを音韻論的母音の,vocoidを音声学的母音の術語として用いているが,これによると vocoidは,空気が舌の中央を通って口から流れ去る際,口において摩擦的噪音を生じない音をさし,[h][][j][w]など,普通は母音とされていない音も vocoidに含まれることになる。母音は,一般に舌の前後および高低の位置と唇の丸めの有無によって分類される。たとえば[u]は,円唇・奥舌・狭母音である。





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母音
ぼいん vowel

声道(声門より上の咽頭,口腔,鼻腔を含めた部分)において,流れ出る空気が妨害されることなく発せられる言語音。口の開きや舌の構えの変化にともなって,口腔内に作られる共鳴室の形状により音質が定まる。これは声道において流れ出る空気の妨害が行われる子音とは区別される。調音的に母音は,(1)舌の形,(2)唇の丸め,(3)軟口蓋の位置により分類される。
(1)舌の形は,(a)舌の位置が口蓋に最も近いものを高母音 high,遠いものを低母音 low とし,その中間を中母音 mid とする。また,(b)舌の最高点が唇の方へ寄っているものを前舌母音 front,奥へ引っ込んでいるものを後舌母音 back とし,その中間を中舌母音 central という。
(2)(a)唇が丸められたものを円唇母音 rounded,唇が両わきに広げられたものを非円唇母音unrounded と呼ぶ。例えば,非円唇前舌高母音は[i],円唇後舌高母音は[u]に相当する。また,非円唇の前舌低母音は[a]で,舌を後ろへ引いた後舌低母音は[ソ]で表される。いま上述の4母音を四隅に配置して線で結べば図のような母音四角形ができる。
 さて,高母音と低母音の間を3等分すれば,非円唇の前舌母音では高め中の[e]と低め中の[ズ]が定まり,円唇の後舌母音では高め中の[o]と低め中の[タ]が作られる。いま,舌を非円唇前舌の[i][e][ズ]の構えにして唇を丸めると,それぞれに対応する円唇前舌母音[y][φ][せ]が発せられる。これらはフランス語の lune[lyn]〈月〉,bleu[blφ]〈青い〉,neuf[nせf]〈新しい〉に現れる。なお,円唇後舌高母音の[u]において唇を非円唇に改めれば[セ]となり,日本語の〈ウ〉がこれに当たる。いま,前舌高母音[i]の舌の位置を少し後ろへ退かせれば中舌の[ゾ]となる。これはロシア語の[jトzゾk]〈舌〉の語の中に出てくる。逆に後舌高母音の[u]の舌の位置を少し前へ押し出すと中舌の[ダ]ができる。これはノルウェー語の[hダs]〈家〉の語に現れる。さらに舌の位置を中舌に置いてその高さを中にしておけば中舌中母音[ト]が生じる。この際,舌先をそらすとそり舌の中舌中母音[ヅ]が作られる。英語の bird〈鳥〉では,英音は[bトビd]であるが,米音は[bヅビd]と発音される。また,英語では,舌が[i]と[e]の間にくる低め高の[㏍]と,[u]と[o]の間にくる低め高の[㊦]が用いられている。例:pit[p㏍t]〈穴〉,put[p㊦t]〈置く〉。さらに非円唇の後舌低母音の[ソ]を円唇に変えれば[ギ]となる。hot〈あつい〉は米音では[hソt]であるが,英音では[hギt]と発音される。
(3)の軟口蓋の位置であるが,まず,(a)軟口蓋の後部を上げれば鼻腔への通路が閉じ,口からのみ息が出る。このようにして発する母音を口母音oral と呼ぶ。(b)これに対し,軟口蓋を下げると鼻腔への通路が開き,息は口と鼻の両方から出る。これを鼻母音 nasal という。鼻母音は母音の音声記号の上に~形をつけて表す。フランス語の paix[pズ]〈平和〉の[ズ]は口母音であるが,pain[p8]〈パン〉の[8]は鼻母音である。また,舌が低母音[a]の構えから出発して低め高母音の[㏍]へ向かって移動するとき二重母音[a㏍]が出る。このように連続した母音において舌の位置が変化するものを二重母音という。例:英語の light[la㏍t]〈光〉,house[ha㊦s]〈家〉。
 音響的には,母音ではスペクトログラムに明瞭(めいりよう)なフォルマントの横じまが現れる。第1フォルマントは[i][e][a]の順に高くなり,[a][o][u]の順に低くなる。第2フォルマントは[i][e][a][o][u]の順に低くなる。母音の音質はこれら二つのフォルマントの分布により決定される。もし第1フォルマントと第2フォルマントの間の距離が広ければ散音 diffuse,狭ければ密音 compact と呼ばれるが,ほぼ散音が高母音に,密音が低母音に対応する。また,第2フォルマントの位置の高いものを鋭音 acute,低いものを鈍音 grave というが,鋭音は前舌母音,鈍音は後舌母音に相当する。ただし,円唇母音ほど第2フォルマントが低くなる。前舌母音では舌が硬口蓋へ向かって上がるので口腔内が二分されるため高い音(鋭音)となるが,後舌母音では舌が軟口蓋へ向かって上がるため,その前に長い共鳴室ができる。そのため低い音(鈍音)となる。⇒音声学∥母音調和∥母音変化
                         小泉 保

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母音
I プロローグ

母音 ぼいん Vowel 肺からだされる空気が妨害をうけることなくつくられる音のこと。これに対して、肺からでる気流がなんらかのかたちで妨害をうけてつくられる音のことを子音という。日本語の「あ、い、う、え、お」の音は母音である。

II 口母音と鼻母音

母音は、大きく口母音と鼻母音に分類される。母音のうち鼻腔に気流がながれないのが口母音で、鼻腔に気流がながれるのが鼻母音である。日本語の「あ、い、う、え、お」の母音は口母音だが、フランス語のenfant(子供)、simple(単純な)でen、an、imとつづられる母音は鼻母音である。日本語でも「しんあい(親愛)」や「でんえん(田園)」などの単語の「ん」の音は、鼻母音で発音される。

III 舌の位置と唇の形による分類

母音はまた、発音するときの舌の位置と唇の形によっても分類される。

舌の位置が高いものを高母音、低いものを低母音とよぶ。舌の位置が高くなると唇の開きはせまくなり、低くなると広くなるので、高母音は狭母音、低母音は広母音ともよばれる。舌の位置が高母音と低母音の中間の母音は、中母音(または半広母音、半狭母音)とよばれる。

舌の高くなる位置が口の前のほうによっている母音は前舌母音、口の奥のほうによっている母音は後舌母音、前舌母音と後舌母音の中間の位置で舌が高くなる母音を中舌母音とよぶ。

日本語の「あ」は低母音、「い」は高母音で前舌母音、「う」は高母音で後舌母音、「え」は中母音で前舌母音、「お」は中母音で後舌母音である。英語でcollect(集める)のo、sofa(ソファー)のaにみられるいわゆる曖昧(あいまい)母音は、中舌母音として発音される。

唇をまるめて発音する母音は円唇母音、唇をまるめないで発音する母音は非円唇母音に分類される。日本語の母音のうち「お」は円唇母音だが、それ以外の母音は非円唇母音である。フランス語のlune(月)やbleu(青い)でu、euとつづられる母音は、円唇母音である。

→ 音韻論:音声学

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半母音
半母音

はんぼいん
semivowel

  

調音が母音とよく似ていながら,それ自身では音節をつくりえず,わたり的である音。半子音の名称も同義で使われることがある。日本語のヤ行 (矢[ja]) の[j],ワ (輪[wa]) の[w],フランス語の nuit[nчi]「夜」の[ч]がそれ。これらに対応する母音は,それぞれ[i],[u] ([]) ,[y]である。「矢」の[j]は,ドイツ語の ja[ja:]「はい,ええ」の[j]ほど,また「輪」の[w]は,フランス語の oie[wa]「雁」の[w]ほど,せばめが著しくないのが特徴。





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K.パイク
同化
ウラル語族
ウラル語族

ウラルごぞく
Uralic languages

  

フィン=ウゴル語派とサモイェード語派から成る。前者は,(1) フィンランド語,カレリア語,ウォート語,ウェプセ語,エストニア語,リーウ語のバルト=フィン諸語,(2) サミ語,(3) モルドウィン語とマリ語のボルガ=フィン諸語,(4) ウドムルト語とコミ語のペルム諸語の4群から成るフィン語派と,(1) ハンティ語とマンシ語のオビ=ウゴル諸語,(2) ハンガリー語の2群から成るウゴル語派に下位区分される。後者すなわちサモイェード語派は,(1) ネネツ語,エネツ語,ガナサン語の北部サモイェード諸語,(2) セリクプ語とカマス語の南部サモイェード諸語に下位区分される。これらの諸語とアルタイ諸語やインド=ヨーロッパ語族との同系説を唱える人もあるが,証明ができているわけではない。ウラル祖語は印欧祖語と同様,前 3000年頃に行われていたと推定される。






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ウラル語族
ウラルごぞく Uralic

北欧からウラル山脈の東側にわたる北ロシアと西シベリアの一部および東欧の一角で話されている言語。ウラル語族はまずフィン・ウゴル語派とサモエード諸語に大別される。さらにフィン・ウゴル語派は,バルト・フィン諸語 Balto‐Finnic(フィンランド語,カレリア語,エストニア語,ボート語ほか)やモルドビン語,チェレミス語(マリ語),ボチャーク語(ウドムルト語),ジリャン語(コミ語)などを含むフィン語派 Finnic と,ハンガリー語,ボグル語(マンシ語),オスチャーク語(ハンティ語)などを含むウゴル語派 Ugrian に区分される(図)。これら言語の間には基本的語彙に厳密な音韻の対応が見られる。フィンランド語,モルドビン語,チェレミス語,ジリャン語,ハンガリー語からの例をとれば,表にみるように語頭の k‐と v‐,語中の‐t‐が対応している。
 フィン・ウゴル祖語の音韻は単純で,子音には閉鎖音 p,t,k,摩擦音 w,δ[め],s,$[∫],j,γ,破擦音 ∴[t∫],鼻音 m,n,ペ,流音 l,r,硬口蓋音δア,sア,cア[tsア],nア,lア がある。母音には前舌の i,e,∵[a],‰[y]と後舌の u,o,a[ピ],長母音  ̄,^,ヾ,仝 を認める説が有力である。語頭には一つの子音しか許されず,子音群(子音の連続)は語中にのみ現れる。いま子音を C,母音を V とすれば,ウラル語の基本的な語の構造は CVCV かCVCCV である。語末の母音は a,∵,e の三つで,ある一つの語のなかでは,後舌の語幹母音の後には a か e だけが,前舌の語幹母音の後には ∵ か e だけが立つ。これが母音調和の原型で,現在もフィンランド語,南エストニア語,チェレミス語,東オスチャーク語とハンガリー語が母音調和の支配を受けている。
 ウラル語の形態的特徴としては多様な名詞の格変化がある。フィンランド語の名詞が15格,ジリャン語が17格,ハンガリー語は20格以上に変化する。祖語では,主格語尾がゼロ,属格語尾が*‐n,対格語尾が*‐m,位置格語尾が*‐na/*‐n∵,方向格の離去語尾が*‐ta/*‐t∵,近接語尾が*‐k および*‐nア と推定される。代名詞は名詞の後では所有語尾,動詞の後では人称語尾となった。〈私の家〉はフィンランド語では talo‐ni,モルドビン語では kudo‐m と名詞の語末に所有語尾が付加される。〈私が来る〉はフィンランド語 tule‐n,チェレミス語 tola‐m と語末に人称語尾をとる。語順は〈主語+目的語+動詞〉の型がチェレミス語,オスチャーク語,ボグル語に見られ,他は〈主語+動詞+目的語〉の配列をなす。
 ウラル語族のうち最古の文献は,ハンガリー語で13世紀初め,ジリャン語が14世紀,フィンランド語とエストニア語では16世紀に出ている。他の言語は最近になって正書法が確立された。ウラル語の原郷はボルガ川の支流でウラル山脈に迫るカマ川の流域(現在のウドムルト共和国)付近と想定する学者が多い。系統的には形態面がアルタイ諸語に似ているため,ウラル・アルタイ語族が主張されたが,両者は区別されるべき語族である。ほかにインド・ヨーロッパ語族やユカギール語との関連が指摘されている。ウラル語の研究はフィンランドの E. N. セタラ,P. ラビラ,E. イトコネンおよびハンガリーのシンニェイ Szinnyei J.,ハイドゥー Haid⇔ P.,ドイツのシュタイニッツ W.Steinitz,スウェーデンのコリンデル B. Collinderなどの学者により推進されてきたが,最近はロシア連邦内の少数民族の研究者が文法や方言の記述を手がけるようになった。        小泉 保

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ウラル語族
ウラル語族 ウラルごぞく Uralic Languages 北ユーラシアの広大な地域で多くの民族によって話される語族。ふつう、フィン・ウゴル語派とサモエード語派の2つの下位語派にわけられ、フィン・ウゴル語派はさらにフィン語派とウゴル語派にわけられる。フィン語派は、フィンランド語、エストニア語、カレリヤ語、リーブ語(同じリーブ語とよばれるラトヴィア語の方言とは別)、ベプス語、チェレミス語、モルドビン語、ボチャーク語、ジリャン語、サーミ語をふくむ。ウゴル語派は、ハンガリー語、オスチャーク語、ボグル語をふくむ。サモエード語派は東北シベリアのサモエード諸族の諸言語をふくむ。

かつてアルタイ諸語とウラル語族とをむすびつけてウラル・アルタイ語族という大語族をみとめる考え方もあったが、現代では、この2つの語族の間に明確な親縁関係をみとめることができず、別個の語族としている。

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フィン=ウゴル語派
フィン=ウゴル語派

フィン=ウゴルごは
Finno-Ugric languages

  

サモイェード語派とともにウラル語族を2分する一語派。フィン語派とウゴル語派に分れる。前者はバルト=フィン諸語,サミ語,ボルガ=フィン諸語,ペルム諸語から,後者はオビ=ウゴル諸語とハンガリー語とから成る。東はノルウェーから西はシベリアのオビ川流域にかけて広く行われ,話し手は 2000万人をこえる。なおサモイェード語派の話し手が少く,またそれとの同系が確立したのが比較的新しいため,フィン=ウゴル語族という名称がウラル語族全体をさすのに用いられることもある。言語の特性としては,膠着語的であること,所有人称接尾辞があること,場所を示す格が豊富であることなど。母音調和や子音の階程交替 (例:フィンランド語 kukka「花」/kukan「花の,」における kk:kの交替) は必ずしもすべての言語にそろっているわけではない。語彙的には借用語に特色があり,近隣の非ウラル系民族との歴史的なさまざまな接触の過程を反映している。





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フィン・ウゴル語派
フィンウゴルごは Finno‐Ugric

ウラル語族はフィン・ウゴル語派とサモエード諸語に大別され,前者はさらにフィン系とウゴル系に分かれる。フィン系にはバルト・フィン諸語,ラップ語(サーミ語),モルドビン語,チェレミス語(マリ語),ジリャン語(コミ語),ボチャーク語(ウドムルト語)があり,バルト・フィン諸語はフィンランド語,エストニア語,カレリア語,ベプス語,リーブ語,ボート語を含む。ウゴル系はハンガリー語とオビ・ウゴル語に分かれ,後者はオスチャーク語(ハンティ語)とボグル語(マンシ語)から成る。        小泉 保

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フィン・ウゴル語派
I プロローグ

フィン・ウゴル語派 フィンウゴルごは Finno-Ugric Languages ウラル語族の下位語派で、スカンディナビア北部、東ヨーロッパ、北西アジアの各地域で約2500万人によって話されている。北西シベリアで話されるサモエード諸語とともにウラル語族を形成する。フィン・ウゴル語派は、ふつうフィン語派(フィン・ペルム諸語ともいう)とウゴル語派にわかれる。フィン諸語は、フィンランドのフィンランド語とエストニアのエストニア語をふくみ、ウゴル諸語には、ハンガリーと隣接諸国のハンガリー人によって話されるハンガリー語(マジャール語ともいう)がふくまれる。

II 分類

またフィン語派には、かつてのソビエト連邦におけるいくつかの小さい言語もふくまれる。このうち、フィンランド語と近い親族関係にあるカレリヤ語は、ロシアのカレリヤ共和国でロシア語やフィンランド語とならんでもちいられている。リーブ語は現在事実上消滅した(リーブ人はラトビア人に吸収され、リーブ語という言葉は非ウラル語のラトビア語の一方言をさす場合がある)。ベプス語はオネガ湖の近くで、また、マリ語(別名チェレミス語)とモルドビン語はボルガ川中流地域で話されている。ウドムルト語(別名ボチャーク語)とコミ語(別名ジリャン語)は、ロシアの北東ヨーロッパ部の広大な地域にひろく点在する小グループによって話されている。ただし、ウドムルト語とコミ語は、フィン・ウゴル語派のペルム下位語派として別にみなされることもある。

北ヨーロッパのサーミランドにひろがってわずかずつ居住するサーミ人が話す約15の言語も、フィン諸語に分類される。ウゴル語派にはハンガリー語のほかに、オスチャーク語とボグル語の2つの小言語がふくまれ、これらは北東シベリアのオビ川渓谷で話される。

III 特徴

一般にフィン・ウゴル諸語の特徴としてよくあげられるのは、母音調和と、2種類の語幹子音の交替をしめす階程交替であり、類型的には膠着語である。フィン・ウゴル語派と、他の語族、とくにアルタイ語族のチュルク語派やインド・ヨーロッパ語族の言語とをむすびつけようとする試みは、類似性の証拠をしめしはしたが、親族関係を証明するにはいたっていない。フィン・ウゴル祖語は、イラン語との接触を通じて豊かになり、その後、フィン諸語はゲルマン語派やスラブ語派(とくにロシア語)の言語から単語を借用した。ハンガリー語はドイツ語、イタリア語、ラテン語、スラブ諸語、トルコ語から影響をうけている。

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サモイェード語派
サモイェード語派

サモイェードごは
Samoyedic languages

  

フィン=ウゴル語派とともにウラル語族を形成している諸言語。北部サモイェード諸語と南部サモイェード諸語に大別される。北部のほうは,北ドビナ川からエニセイ川にかけて約3万人の話し手をもつネネツ語,タイムイル半島で約 1000人が話しているガナサン語,エニセイ河口に約 200人が使っているエネツ語から成る。南部に属するのは,タズ川とオビ川中流地域のセリクプ語 (3000人) と,サヤン山脈のカマス語である。カマス語はすでに絶滅したという報告もある。サモイェード語派の研究はフィンランド,ハンガリー,旧ソ連の学者によって推進されている。





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サモエード諸語
サモエードしょご Samoyed

ウラル語族はフィン・ウゴル語派とサモエード語派に大別される。後者に属する言語群をサモエード諸語という。サモエード語派は北方語群と南方語群に分かれる。
 ロシアにおける現在の公称と括弧内に従来用いられた旧称をあげれば,北方語群には(1)ネネツNenets 語(ユラク・サモエード Yurak‐Samoyed語),(2)エネツ Enets 語(エニセイ・サモエードYenisei‐Samoyed 語),(3)ガナサン Nganasan 語(タウギ・サモエード Tavgi‐Samoyed 語)がある。ネネツ語は北東ヨーロッパから西シベリアの北極海沿い,北ドビナ川からエニセイ河口にわたる広い地域で約2万9000人によって話されている(ネネツ族)。行政的にはネネツ自治管区とヤマロ・ネネツ自治管区に属する。ツンドラ方言と森林方言に分かれる。エネツ語はネネツ語に近く,エニセイ川下流のドゥジンカの南と北で話され,話者は300人あまりとされる。ガナサン語はタイミル半島すなわちタイミル自治管区で用いられ,言語人口は1000人あまりである。
 また南方語群は(4)セリクープ Sel’kup 語(オスチャーク・サモエード Ostyak‐Samoyed 語),(5)カマシ Kamassi 語(サヤン・サモエード Sayan‐Samoyed 語)から成る。セリクープ語は,東はエニセイ川から西はオビ川の中流にわたるあたり,北はタス川,南はケット川に至る地域で話されていて,タス,ティム,ケットなどの方言に分かれ,4300人あまりが用いている(セリクープ族)。カマシ語はかつて南部シベリアのサヤン山脈付近でも話されていたが今は消滅している。
 サモエード語はフィンランドのカストレン M. A.Castrレn が調査し,文典(1854)と辞典(1855)を著したが,現地人のプロコフィエフ G. N. Prokof’evも文法概説(1937)を書いている。フィンランドのレヒティサロ T. Lehtisalo やハンガリーのハイドゥー Hajd⇔ P.,ソ連のテレシチェンコ N. M.Tereshchenko らにより言語研究が進められ,口承文芸を中心とした豊富な言語資料が集められている。最近ではサモエード語の雑誌や文芸作品も出ている。
 言語の構造をみると,たとえばネネツ語には声門閉鎖音に無声/ボ/と有声/ホ/の別がある。例:/veボ/〈国〉,/veホ/〈犬〉。名詞は7格に変化し所有語尾をもつ。ジano‐da‐md〈君(が使うはず)のボートを〉では,予定変化語尾‐da‐の後に二人称単数の所有語尾の目的形‐md が付加されている。また名詞も述語変化をなす。例:man’ xan’ena‐mz’〈私は 狩人‐だった〉。語順は主語+目的語+動詞の順である。例:nis’a junpadar‐mボ pada〈父が 手紙‐を 書いた〉。         小泉 保

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ネネツ語
ネネツ語

ネネツご
Nenets language

  

ウラル語族のサモイェード語派に属する言語。北方ツンドラ地帯に約3万人の話し手がいる。ネネツは自称で,ユラーク=サモイェード語 (他称) ともいう。エネツ語 (エニセイ=サモイェード語) やガナサン語 (タウギ=サモイェード語) とともに北部サモイェード諸語にまとめられる。





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セリクプ語
セリクプ語

セリクプご
Sel'kup language

  

西シベリアのタズ川およびオビ川流域に住む,サモイェード (サモディ) 諸族の一民族セリクプ族の言語で,約 3000人の話し手がある。オスチャーク=サモイェード語ともいい,カマス語 (サヤン=サモイェード語) とともに南部サモイェード諸語にまとめられる。





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アルタイ諸語
アルタイ諸語

アルタイしょご
Altaic languages

  

チュルク諸語,モンゴル語,ツングース語の総称。この3つがアルタイ語族 Altaic familyを形成するか,あるいはアルタイ言語連合 Altaic Sprachbundを形成するにすぎないのかについては意見が分れている。言語構造は互いによく似ているが,その膠着語的性格のもつ規則性が逆に親族関係の確立を困難にしている。数詞なども著しい相違がみられる。また,日本語や朝鮮語との類似も指摘され,この2言語もアルタイ諸語に含める人もあるが,これらとの親族関係も未証明である。





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[ブリタニカ国際大百科事典 小項目版 2008]


アルタイ諸語
アルタイしょご Altaic

トルコ語などチュルク語族の諸言語,モンゴル語などモンゴル語族の諸言語,満州語などツングース語族の諸言語の総称。これらの諸言語が互いに親族関係にあってアルタイ語族をなすとの説が有力で,さらに朝鮮語や日本語をも含めた親族関係が問題にされることがある。分布地域は広く,一部で重なり合いながら東ヨーロッパからシベリアに及ぶが,チュルク諸語は中央アジアを中心に東ヨーロッパ,中国西部,シベリアの南部・中部などに話されており,モンゴル諸語はモンゴル,中国の内モンゴル地方を中心に,ボルガ川中流,アフガニスタン,シベリアのバイカル湖付近などに分布する。ツングース諸語は中国の新疆ウイグル自治区,東北地方などに一部話されているが,沿海州やシベリア中部から東部にかけて分布する。話し手の人口は詳細は不明ながら,チュルク諸語が5000万以上,モンゴル諸語は300万程度,ツングース諸語は10万またはそれ以下であろうといわれている。
[親族関係]  言語構造は互いによく類似し,ロシア語,イラン諸語,中国語など隣接の多くの言語と著しい対照を示すので,共通の祖語から分化してきた同じ系統の言語とする説が早くから主張されてきた。これらの諸言語は音韻や文法など言語構造の枠組みにおいては著しく類似しているが,構造の実質をなす形態素や基礎的な語彙に関しては,借用の疑いのあるものを除くと,祖語から受け継いできたと認めうる共通のものはきわめて少ないのが実情である。基礎的な語彙の中では代名詞が類似している点が注意をひくが,数詞はそれぞれの語族に独特であり,親族名称,人体部位の名称などには,形と意味の両面で類似する語はほとんどない。アルタイ諸語の場合,歴史的に常に密接な交渉をもち互いに影響し合ってきており,構造が似通っているうえに規則的で単純なので,文法要素をも含めて形式の借用は容易に行われえたであろう。構造が規則的で不規則形に乏しいことは,親族関係の証明には不利であり,著しい相互影響のもとで歴史的変遷をとげてきたことが問題をいっそう複雑にしている。親族関係を主張する学者の間でも,3語族の系譜的関係については,特にモンゴル語族といずれの語族とをより近いとみるかをめぐって一致した意見があるわけではない。また,〈アルタイ語族〉の中に朝鮮語を加えあるいは日本語を含める説があり,またフィンランド語やハンガリー語などのウラル語族との親族関係を仮定して〈ウラル・アルタイ語族〉をなすとの説もあるが,いずれも証明の確立した学問的な定説であるわけではない。
[構造上の特徴]  共通の特徴としてあげられるおもなものは次のようである。(1)単語の音韻構造は比較的簡単で,単語の始めに子音群が現れることはない。(2)X で始まる単語がない。X で始まる外国語の単語を借用する際には l や n などに置き換えた形や母音を補った形で受け入れるのが普通である。(3)母音調和の現象がみられる。母音が強母音,弱母音の2系列に分かれて対立し,ひとつの単語(付属語との連結を含む)の内部では,いずれか一方の系列の母音のみが現れ,両者が共存することがない。言語によってはどちらの系列の母音とも共存しうる中性母音をもつことがある。トルコ語の例――強母音 a,o,そ,u,弱母音 e,Å,i,‰。モンゴル語の例――強母音 a,o,u,弱母音 e,Å,‰,中性母音 i。ツングース語族エベンキ語の例――強母音 a,o,^,弱母音ト,中性母音 u,i。なお,母音の連続については例えば円唇母音など,現れ方にさらに制限がある場合がある。(4)単語の形は2音節以上であることが多い。語根が1音節でそのまま単語として用いられるものも多いが,語根が2音節以上の単語も多く,接尾辞や語尾が接合して2音節以上の形をもつ単語は圧倒的に多い。(5)単語の形態的構造はいわゆる膠着語的で,接頭辞や前置詞のような形式はなく,接尾辞の接合によって新しい語を構成し,曲用,活用などの文法現象も接尾辞や語尾の接合によって示され,後続の付属語や後置詞などとの連結によって諸種の文法機能,意味上の区別を表現する。これらの接尾辞,語尾,付属語は母音調和の規則に従うので,強母音,弱母音の系列の母音の違いによる交替形があるのが普通である。例えばトルコ語では,at(馬),ev(家)に対して at‐lar(馬,複数),ev‐ler(家,複数);at‐tan(馬から),ev‐den(家から);at‐そm(私の馬),ev‐im(私の家);at‐そm‐dan(私の馬から),ev‐im‐den(私の家から);at‐lar‐そm(私の馬,複),ev‐ler‐im(私の家,複);at‐lar‐そm‐dan(私の馬(複)から),ev‐ler‐im‐den(私の家(複)から)などのように構成する。また動詞 yaz‐(書く),sev‐in‐(喜ぶ。sev‐〈愛する〉)から派生する動詞語幹の接辞には yaz‐dそr‐(書かせる),yazdそr‐そl‐(書かされる);sevin‐dir‐(喜ばせる),sevindir‐il‐(喜ばされる)などのような交替形がある。なお,母音の連続に関する制限がある場合には,交替形の数がさらに多くなることがある。(6)名詞は文法的性の区別はないが,複数接辞,格語尾をとって曲用し,また所属人称語尾や所属反照語尾をとって所有や所属の関係を表現する。(7)形容詞は名詞に準じて曲用を行いうる。(8)動詞の活用体系は複雑で多くの活用形があるが,名詞に統合する連体形,述語に統合する連用形に多くの区別がある点に特色がある。(9)関係代名詞のようなものはなく,接続詞も十分発達してはいないが,動詞の連体形や連用形が主語や目的語,補語をとって従属文を導き主文との連結の役割を果たし,複雑な構造の文を構成する。(10)修飾語は被修飾語の前に立つ。(11)目的語や補語はそれを支配する動詞に先行する。(12)主語は他の成分より前に置かれ,述語は最後に位置して文を結ぶが,述語だけでも文をなすことができる。                 大江 孝男

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アルタイ諸語
I プロローグ

アルタイ諸語 アルタイしょご Altaic Languages 西はトルコ、東はオホーツク海にいたる広大なユーラシア地域で話される語族で、チュルク語派、モンゴル語派、ツングース語派の3つの下位語派からなる。学者によっては、朝鮮語と日本語、さらにアイヌ語をもこの語族にふくめる。

II チュルク語派

チュルク語派には次の5つの分派がある。(1)南西チュルク語またはオグズ語としても知られる南チュルク語群、(2)西チュルク語群またはキプチャク語群、(3)東チュルク語群またはカルルク語群、(4)北チュルク語群または東フン語群、(5)単独で一分派をなすボルガ河流域のチュバシ語。

南チュルク語群には以下の言語がふくまれる。トルコとバルカン半島で話され、チュルク語派の中でもっとも使用範囲のひろいトルコ語、アゼルバイジャンと北西イランのアゼルバイジャン語、トルクメニスタンを中心とする中央アジアのトルクメン語。西チュルク語群には、中央アジアのカザフ語とキルギス語、トルコ、バルカン諸国、中央アジア、中国で話されるタタール語がふくまれる。東チュルク語群には、ウズベキスタンを中心とする中央アジアのウズベク語、シンチアンウイグル自治区と中央アジア一部地域のウイグル語がふくまれ、北チュルク語群はサハ語(ヤクート語)、アルタイ語などシベリアで話される多くの言語からなる。

III モンゴル語派とツングース語派

モンゴル語派には、東シベリアのブリヤート語、主としてカスピ海沿岸のロシアで話されるカルムイク語、モンゴルで話され、この語派でもっとも使用範囲のひろいモンゴル語がはいる。ツングース語派の中で、満州語は、かつて中国でもっともひろく話されていた重要な言語だったが、今日ではほぼ死滅している。現代のツングース諸語には、中央シベリアとモンゴルで話されているエベンキ語(ツングース語)、東シベリアのエベン語(ラムート語)、東シベリアのナナイ語、シベリア北東部で話されるウデヘ語などがある。

IV 一般的特徴

アルタイ諸言語の一般的特徴は、接尾辞の膠着性(→ 膠着語)と、同一語内部で同じ音色の母音しか連続しないという母音調和であり、接尾辞の母音も語幹母音の音色と一致する。また性の区別をもたない。母音は多様だが、子音は比較的少ない。

かつては、アルタイ諸語とウラル語族とをむすびつけて、より大きなウラル・アルタイ語族にまとめようとする学者もいたが、今日ではそのような語族を仮定するには証拠が少なすぎると考えられている。

アルタイ諸語を話す民族の中には、4~13世紀にかけてヨーロッパに侵入したフン族やモンゴル族、また1644年から1912年まで中国を支配した清朝の満州族など、歴史的に重要なものがある。

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チュルク諸語
チュルク諸語

チュルクしょご
Turkic languages

  

トルコ共和国のトルコ語,およびそれと同系の諸言語をさす。中央アジア,中国のシンチヤン (新疆) ウイグル自治区,シベリアに広く分布している。話し手約1億人。主要言語は,トルコ語,アゼルバイジャン語,トルクメン語,ウズベク語,キルギス語,カザフ語,カラカルパク語,ノガイ語,クミク語,バシキール語,タタール語,トゥーバ語,ウイグル語,ヤクート語,チュバシ語など。この語族は言語的にかなり均質で,ただヤクート語,とりわけチュバシ語が他から著しく異なるだけである。文法構造上,膠着性を共通にもつ。母音調和もほとんどすべての言語に存在する。最古の文献は8世紀のオルホン碑文・エニセイ碑文であるが,それから現代諸言語への変化はそう大きくない。文字は 1920年代初めまでアラビア文字が使われたが,旧ソ連領内のトルコ族はローマ字を経て現代はロシア文字を使用。トルコ語もローマ字を使用し,アラビア文字は中国やイランなどのトルコ族が使っているだけである。チュルク諸語は,モンゴル語,ツングース語とともにアルタイ語族を形成するという見方が有力であるが,証明が完成しているとはいえない。





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チュルク諸語
チュルクしょご Turkic

広い意味のトルコ語。狭い意味のトルコ語がトルコ共和国語をさすのに対して,トルコ共和国語を含めて,アジア大陸,ヨーロッパ大陸に広く分布する同族のトルコ系諸言語のすべてをさす。ロシア語で,前者をトゥレツ Turets 語,後者をチュルクTyurk 語といって区別するのに当たる。西はバルカン,クリミア(ほぼ東経21ツ)からボルガ川中流地帯,中央アジア,シベリアおよび中華人民共和国の新疆ウイグル自治区,そして東はレナ川流域(ほぼ東経160ツ)に至る広大な地域に分布するが,話し手の数は約4000万(数え方にもよるが数の上では世界第10位)である。一つの独立国(トルコ共和国),旧ソ連邦から独立した5共和国(ウズベキスタン,カザフスタン,アゼルバイジャン,キルギスタン,トルクメニスタン),ロシア連邦内の4共和国(バシコルトスタン,タタールスタン,チュバシ,サハ(ヤクート)とウズベキスタン内のカラカルパクスタン自治共和国の主要言語。モンゴル諸語,ツングース諸語,朝鮮語とよく似ており,これらとアルタイ諸語を形成する。
 分布地域の広さの割に方言の違いが小さい。チュバシ方言,ヤクート方言を除けば,各方言の話し手は互いに会話ができるほどである。サモイロビッチ A. Samoilovi∴ によると,チュルク語はまず R 方言(t∞hh∞r〈九つ〉)と Z 方言(dokuz,tugトz〈九つ〉)とに分類される。前者にチュバシ語,後者にそれ以外のすべての方言が属する。Z 方言はさらに D 群(atak,adak,azak〈足〉)と Y 群(ayak〈足〉)とに分かれ,前者にヤクート,トゥバ(旧ソヨート,ウリヤンハイ),カラガス,ハカス,アバカン,ショルの各方言が,後者には残るすべての方言が属する。いわゆる〈オイロート語〉もこの後者に属する。
 チュルク語では,他のアルタイ諸語よりも一般に厳格な母音調和が行われている。トルコ共和国語(トルコ語)を例にすると,八つの母音音素が/a,o,そ,u/と/e,Å,i,‰/の二つの群に分かれ,それぞれに属する母音音素が互いに同一の文節内で共起することがない。ayak という語はありうる(し,現にある)が,ayek などという語はありえない。他のアルタイ諸語のように,どちらの群とも共起しうる第3の中立群はない。さらに,同一の文節内で,/u,‰,(o,Å)/は/u,‰,o,Å/の次にしかこないという制限がある。例:gÅr‐‰n‐d‰〈見えた〉(gÅr〈見る〉,gÅr‰n〈見える〉),bil‐in‐di〈知られた〉(bil〈知る〉,bilin〈知られる〉)。その上,語幹の最後の母音音素に応じて交替する接辞の母音音素が/u,‰,(o,Å)/と/a,e,(o,Å)/とに分かれ,それぞれに属する母音音素が互いに(接辞の内部で)共起することがない。例:bul‐du〈見つけた〉,gÅr‐d‰〈見た〉,al‐dそ〈取った〉,bil‐di〈知った〉,bul‐acak〈見つけるだろう〉,gÅr‐ecek〈見るだろう〉,al‐acak〈取るだろう〉,bil‐ecek〈知るだろう〉。
 人称を接辞で表すのは,他のアルタイ諸語にないわけではないが,チュルク語ではきわめて一般的である。チュバシ語を例にすれば,pull∞m〈わたしの魚〉,pullu〈お前の魚〉,pull∞m∞r〈わたしたちの魚〉,pull∞r〈お前たちまたはあなたの魚〉,pulli〈彼または彼らの魚〉。なお pull∞ は〈魚〉である。動詞では,kalaram〈わたしが言った〉,kalar∞n〈お前が…〉,kalar♂〈彼が…〉,kalar∞m∞r〈わたしたちが…〉,kalar∞r〈お前たちまたはあなたが…〉,kalar♂z〈彼らが…〉。語順は,主語→述語,客語→述語,修飾語→被修飾語の順で,日本語とまったく一致する。たとえば,ハカス語で,Min(私は)ib‐deペ(家‐から)pi∴ik(手紙(を))al‐dy‐m(受けとった〈私が〉);Ki∴ig(小さい)pala‐lar(子ども‐たち)となる。語彙(ごい)にはロシア語とアラビア語からの借用語が目だつ。前者は比較的新しいことで,トルコ共和国語にはロシア語からの借用語はない。後者は数世紀の歴史をもち,話し手がイスラム教徒でないチュバシ,ヤクート,アルタイの諸方言にも及んでいる。しかし,アラビア語の影響はだいたい北と東へいくほど薄く,南と西へいくほど濃い。たとえば〈手紙〉を意味する語は,次のように南と西へいくほどアラビア語からの借用語 maktub を使う方言が多くなる。例:ハカス pi∴ik,トゥーバ∴agaa,バシキール hat,カザフ hat,ノガイ hat,チュバシ zyru,ウイグル hat・mトktup,ウズベクhat・maktub,アゼルバイジャン mトktub,トルコmektup。
 正書法は旧ソ連邦内のチュルク系各共和国ではロシア文字,トルコ共和国ではラテン文字(ローマ字),中華人民共和国の新疆ウイグル自治区のウイグル人はアラビア文字(旧ソ連邦内のウイグル人はロシア文字)である。トルコ共和国では1928年以前はアラビア文字,チュルク系各共和国では39年ごろまでの10年足らずの間はラテン文字,それ以前は,イスラム教徒の各種族はアラビア文字を使っていた。チュルク語の最も古い文献は732年と735年の日付のある突厥(とつくつ)碑文で,特別の文字(突厥文字)で書かれている。11世紀以後は古代ウイグル語の文献が残っており,その最も重要なものは1069∥70年の日付のある《クタドグ・ビリク》と称する教訓詩である。14~15世紀ころから各地にそれぞれ文字言語が発達した。そのうち,オスマン・トルコ語とチャガタイ・チュルク語が最も発達した。前者は現代トルコ共和国語の前身で,セルジューク時代のアナトリア・チュルク文語を経て,中央アジア・チュルク語にさかのぼる。後者は15世紀のティムール朝で発達した文語で,いわゆるチャガタイ文語(チャガタイ語)として後世まで諸種族間の共通語として行われた。これらの古い文献にみえるチュルク語は現代チュルク諸語とよく似ている。               柴田 武

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アルタイ諸語
I プロローグ

アルタイ諸語 アルタイしょご Altaic Languages 西はトルコ、東はオホーツク海にいたる広大なユーラシア地域で話される語族で、チュルク語派、モンゴル語派、ツングース語派の3つの下位語派からなる。学者によっては、朝鮮語と日本語、さらにアイヌ語をもこの語族にふくめる。

II チュルク語派

チュルク語派には次の5つの分派がある。(1)南西チュルク語またはオグズ語としても知られる南チュルク語群、(2)西チュルク語群またはキプチャク語群、(3)東チュルク語群またはカルルク語群、(4)北チュルク語群または東フン語群、(5)単独で一分派をなすボルガ河流域のチュバシ語。

南チュルク語群には以下の言語がふくまれる。トルコとバルカン半島で話され、チュルク語派の中でもっとも使用範囲のひろいトルコ語、アゼルバイジャンと北西イランのアゼルバイジャン語、トルクメニスタンを中心とする中央アジアのトルクメン語。西チュルク語群には、中央アジアのカザフ語とキルギス語、トルコ、バルカン諸国、中央アジア、中国で話されるタタール語がふくまれる。東チュルク語群には、ウズベキスタンを中心とする中央アジアのウズベク語、シンチアンウイグル自治区と中央アジア一部地域のウイグル語がふくまれ、北チュルク語群はサハ語(ヤクート語)、アルタイ語などシベリアで話される多くの言語からなる。

III モンゴル語派とツングース語派

モンゴル語派には、東シベリアのブリヤート語、主としてカスピ海沿岸のロシアで話されるカルムイク語、モンゴルで話され、この語派でもっとも使用範囲のひろいモンゴル語がはいる。ツングース語派の中で、満州語は、かつて中国でもっともひろく話されていた重要な言語だったが、今日ではほぼ死滅している。現代のツングース諸語には、中央シベリアとモンゴルで話されているエベンキ語(ツングース語)、東シベリアのエベン語(ラムート語)、東シベリアのナナイ語、シベリア北東部で話されるウデヘ語などがある。

IV 一般的特徴

アルタイ諸言語の一般的特徴は、接尾辞の膠着性(→ 膠着語)と、同一語内部で同じ音色の母音しか連続しないという母音調和であり、接尾辞の母音も語幹母音の音色と一致する。また性の区別をもたない。母音は多様だが、子音は比較的少ない。

かつては、アルタイ諸語とウラル語族とをむすびつけて、より大きなウラル・アルタイ語族にまとめようとする学者もいたが、今日ではそのような語族を仮定するには証拠が少なすぎると考えられている。

アルタイ諸語を話す民族の中には、4~13世紀にかけてヨーロッパに侵入したフン族やモンゴル族、また1644年から1912年まで中国を支配した清朝の満州族など、歴史的に重要なものがある。

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モンゴル語
モンゴル語

モンゴルご
Mongolian languages

  

狭義では,モンゴル国のモンゴル族および中国の内モンゴル自治区のモンゴル族の言語であるモンゴル語をさす。話し手は 500万人以上。その中心は,モンゴルの首都ウラーンバートルに話されているハルハ語で,これが共通語の地位を占めつつある。内モンゴル自治区には,ほかにオルドス語,チャハル語,ハラチン語などがある。広義にはモンゴル諸語全体をさし,以上のほかにブリヤート語,オイラート語,カルムイク語,モゴール語,ダグール語 (ダフール語) ,モングォル語を含む。このうち,モングォル語とダグール語およびモゴール語は他の諸言語とかなり異なっている。カルムイク語,ブリヤート語はみずからの文字言語をもっている。モンゴル語全体として,膠着語的で接尾辞が多く用いられ,母音調和があり,語順が日本語と酷似しているなどの特徴がある。チュルク諸語,ツングース語とともにアルタイ語族を形成するといわれるが,これら3言語群間の親族関係は,証明が完全に確立しているとはいえない。





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モンゴル語
モンゴルご Mongolian

狭義では,現在モンゴル国で話される言語を指すことが多いが,内モンゴル自治区のモンゴル人の言語も含まれることもある。また,広くモンゴル民族の用いるモンゴル系の言語全般(すなわちモンゴル諸語)を漠然と〈モンゴル語〉と呼ぶ場合もしばしばあり,この意味では,旧来の〈蒙古語〉という語の用いられ方と同義といえる。モンゴル語は言語としてはアルタイ系の言語(アルタイ諸語)に属し,その構文法などは,日本語に酷似し,日本語の系統を考える際に重要な言語である。⇒モンゴル諸語                  小沢 重男

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モンゴル語
モンゴル語 モンゴルご Mongolian Language アルタイ諸語のモンゴル語派に属する言語。中央アジアのモンゴル高原を中心としたモンゴル国、中国の内モンゴル自治区、甘粛省、青海省、シンチアンウイグル自治区、ロシア連邦のカルムイク共和国に住むモンゴル族によって話されており、話し手人口は約500万人余と推定される。

狭義には、モンゴル国のハルハ・モンゴル語や内モンゴル自治区のチャハル・モンゴル語をさしてモンゴル語とよび、これら以外のカルムイク共和国のカルムイク・モンゴル語などをふくむモンゴル諸語と区別する場合がある。

モンゴル語の表記には、元来、ウイグル文字をもとにしたモンゴル文字が使用されており、内モンゴル自治区では現在も使用されつづけている。いっぽうモンゴル国では1941年以来キリル文字が採用されてきたが、80年代末にはじまる民主化の動きの中で、モンゴル文字の復活の動きがひろがっている。モンゴル語は膠着語的で、文法的には日本語に似た特徴をもつ。基本語順は「主語?目的語?述語」で、修飾語は被修飾語の前にきて、名詞のうしろに格語尾があり、動詞語尾などももっている。

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ブリヤート語
ブリヤート語

ブリヤートご
Buryat language

  

モンゴル語の1つ。バイカル湖付近に住むブリヤート族の言語で,ロシアのブリヤート共和国を中心に約 35万人の話し手をもつ。方言的には西ブリヤート方言と東ブリヤート方言に大別される。中心は東のホリ方言。 1931年にそれまでのモンゴル文字からローマ字に替えたが,その後 38年からロシア文字を使用。





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ブリヤート語
ブリヤートご Buryat

モンゴル系の言語の一つで,おもにロシア連邦のブリヤート共和国で使用されるほか,内モンゴルの一部でも用いられる。ブリヤート・モンゴル語ともよばれる。モンゴル諸語の中で,北部方言に属し,その使用人口は30万人以上にのぼると推定される。ブリヤート語は,ハルハ語の ts に対して sが,tイ に対して イ が,さらに s に対して h が現れるなどの音韻的特徴をもつ言語である。例,ハルハ語 tsagaan〈白い〉:ブリヤート語 sagaan,ハルハ語 tイada‐〈できる〉:ブリヤート語 イada‐,ハルハ語 usa(n)〈水〉:ブリヤート語 uhan。1939年にロシア文字による新しいブリヤート・モンゴル文字を制定し,現在にいたっているが,この文字による文章語は,ブリヤート人一般に理解されやすいホリ方言に基づく。              小沢 重男

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オイラート語
オイラート語

オイラートご
Oirat(Oyrat) language

  

自称はオイロド oyrod。モンゴル語の一つで,ボルガ河口のカルムイク語とホブド地方のオイラート語を合せていう場合と,狭く後者だけをいう場合がある。狭義のオイラート語はモンゴルの北西部に約5万人,中国の新疆におそらく約 10万人の話し手がいる。カルムイク語と近い関係にあるが,文字言語としてはハルハ語を用いる。





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オイラート語
オイラートご Oirat

モンゴル系の言語の中の一つで,モンゴル語西部方言の別称。オイラート方言ともいう。オイラート語はさらに,(1)カルムイク方言(カルムイク語ともいう)と,(2)その他のオイラート下位方言,すなわちコブト地域のドルボド方言とバイト方言,アルタイ地域のトゥルグート,ウリヤンハ,ザハチン,ミンガトの諸方言,ダムビのオロート方言などに分かれる。オイラート人は,古く1648年にホシュート族の高僧ザヤ・パンディタ Zaya Pandita によって創案されたトド Todo 文字(〈明白な〉文字の意で,蒙古文字(モンゴル文字)に若干の改良を施したもの)をもって自己の言語を書写してきたが,これが,いわゆるオイラート文語であり,この文字は現在でも中国の新疆ウイグル自治区に住むオイラート人によって用いられている。また,カルムイク語は1924年以後(1931年から38年にかけては,一時ラテン文字も用いられたことがある),ロシア文字に幾分の変更を加えた文字によって書写されている。                 小沢 重男

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カルムイク語
カルムイク語

カルムイクご
Kalmyk language

  

モンゴル語の一つ。カルマック語ともいう。自称はハリマク xalimg。ボルガ川下流のロシア,カルムイク共和国で話される。話し手約 13万人。ホブド地方のオイラート語の話し手の一部が移住したもので,カルムイク語もオイラート語も,ともに両者の総称としても用いられる。狭義のカルムイク語は,デルベット方言,ブザーワ方言,トルグート方言に分れる。ロシア文字による文字言語を有する。





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カルムイク語
カルムイクご Kalmyk

モンゴル諸語オイラート方言(オイラート語)の中の有力な言語で,しばしば,オイラート方言の別称としても用いられる。歴史的には,17世紀初めにイリ地方からボルガ河岸に移住したオイラート族の言語が時の経過につれてカルムイク語として形成されたものである。現代のカルムイク語は,ロシア連邦北カフカスのカルムイク共和国のカルムイク人およびアストラハン,ロストフ,ボルゴグラードの諸地域に住むカルムイク人(約14万人)によって話され,デルベト,トルグート,ブザーワの3方言に分かれている。現代の標準カルムイク文語は,上のデルベト,トルグート2方言を基盤として成立した。カルムイク語は,モンゴル諸語の中にあって,比較的古形を保存している点で注目される。⇒カルムイク文字             小沢 重男

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モゴール語
モゴール語

モゴールご
Mogol language

  

アフガニスタンのヘラート州に行われているモンゴル語。話し手はイル・ハン国の駐留モンゴル人の子孫とみられ,約5万人。長母音など古い特徴を多く保持していると認められるが,実は,ペルシア語のなかに,その音韻構造によって受入れたモンゴル語の単語・形態素を混ぜた言語で,現在ではおそらく隠語的機能を有するものであろう。この言語の資料としては,G.ラムステットの調査報告"Mogholica" (1906) ,1955年に京都大学探検隊 (岩村忍ら) が発見したテキスト"Zirni Manuscript" (61) ,M.ワイヤースの著書"Die Sprache der Moghol der Provinz Herat in Afganistan" (72) などがある。





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モゴール語
モゴールご Moghol

モンゴル系の一言語で,他のモンゴル諸語とは遠くはなれたアフガニスタンに孤立して存在する。モゴール語は中世の駐留モンゴル人の後裔の言語と考えられ,古い中世的な言語的特徴を保存している。例えば,古く存在した q∬ と ヌ∬ は,現代の多くのモンゴル諸語では ki(あるいは xi),gi と合流してしまったが,モゴール語ではそのまま保たれている。古く G. J. ラムステッドの研究があり,1955年には日本の京都大学探検隊による調査研究がなされた。さらに69年から70年にかけての西ドイツのワイヤース M. Weiers の調査研究がある。                      小沢 重男

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ダグール語
ダグール語

ダグールご
Daghur language

  

モンゴル語の一つ。ダウル語,ダフール語,ダゴール語ともいう。中国東北地方に話され,他のモンゴル語とは著しく異なる。話し手の数は約7万人と推定される。方言的にはハイラル方言とチチハル方言に大きく2分される。長母音,二重母音など,古い特徴を保存している。





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ダゴール語
ダゴールご Dagur

現代のモンゴル系言語(モンゴル諸語)の一つ。ダグール語,ダフール語,ダウール語ともいい,中国では達斡爾語と表記する。中国領内モンゴル(蒙古)自治区のフルンブイル(呼倫貝爾)盟の地域および黒竜江省のチチハル(斉斉哈爾)市付近の嫩江(のんこう)とその支流一帯の地域で話され,その使用人口は約8万にのぼる。その他,新疆ウイグル(維吾爾)自治区塔城県にも3000余人のダゴール語使用人口があると報ぜられている。この言語は,モンゴル系言語の中で,とくに中世的な古風な特徴を保持している点で,モンゴル系言語の研究上貴重な言語である。その一,二を例示すれば,音韻面では中世の語頭の h の残存(ダゴール語では χ として残っている)が見られ,また形態面では中世の人称代名詞の残存(一人称複数のexclusive baa〈(相手を含めない)我々〉,また三人称単・複数の iin〈彼,彼女,それ〉,aan〈彼(彼女,それ)ら〉)があげられよう。方言的にはブトゥハ(布特哈)方言とチチハル方言に分かれ,その方言的差異は大きくない。⇒ダフール族    小沢 重男

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モンゴォル語
モングォル語

モングォルご
Monguor language

  

中国,甘粛省西部および青海省に行われているモンゴル語の一方言。話し手約9万人。語頭に子音連続やrが立つなど,新しい特徴がある一方,祖語の長母音を部分的に保存するなど,他のモンゴル諸方言とかなり異なっており,13世紀よりずっと前に分岐したと推定される。





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ツングース語
ツングース語

ツングースご
Tungus languages

  

シベリア東部,サハリン島,中国東北地方および辺境地方などに分布している言語。エベン語,エベンキ語 (ソロン語) ,ネギダル語,ウデヘ語,オロチ語,ナーナイ語,オルチャ語,オロッコ語,満州語から成る。ツングース語という名称は,以上のうち満州語を除くすべての言語をさすのに用い,全体は満州=ツングース語ということもあり,最も狭義ではエベンキ語だけをさすこともある。これら広義のツングース語が共通の祖語にさかのぼることは明らかであるが,それがさらにチュルク諸語,モンゴル語とともにアルタイ語族を形成するか否かの言語学的証明は未確立である。文献の存在するのは,少量の女真語文献 (12~13世紀) を除けば,満州語のみで,それも 17世紀以降であるため,歴史的研究が遅れており,むしろ現代諸方言の比較研究にまつところが大きい。





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ツングース語系諸族
ツングースごけいしょぞく

ツングース諸語に属する言語を話す諸民族。かつてはツングース族(広義の)と呼ばれた。今日,その大部分はロシア連邦のシベリアと極東地域に住み,少数が中国の東北部,新疆ウイグル(維吾爾)自治区,内モンゴル自治区に居住する。ロシア領でツングース語を話す人口は全体で約4万(1979)である。ツングース諸語については,言語学上,北方群と南方群に分けるシレンクの先駆的提言をはじめ,別項の〈ツングース諸語〉に見られる分類など,いくつかの分類の試みがあるが,ここでは旧ソ連のツングース学者 G. M. ワシーレビチの分類に基づいて説明する。
 ワシーレビチは,まずツングース諸語をツングース語群と満州語群に二大分し,前者についてはさらにシベリア語群,アムール下流語群の下位区分を行っている。シベリア語群にはエベンキ語(ソロン方言を含む),ネギダール語,エベン語が含まれ,アムール下流語群にはナナイ語,ウリチ語,ウイルタ語,オロチ語,ウデヘ語が含まれる。一方,満州語群は満州語(シボ方言を含む)と女真語(死語)からなっている。
 シベリア語群,アムール下流語群の諸語を使用する民族は,ソロン族を除いてほとんどがロシア領に居住する。そのうち,最も人口の多いエベンキ族(2万9900人(1989,ロシア側のみ)。狭義のツングース族)はエニセイ川西岸からオホーツク海岸に及ぶ東シベリア全域に広範に分布し,その生業は各地の自然環境や文化的背景,歴史的事情を反映して地域的差異を示している(狩猟採集,トナカイ飼養,農牧畜など)。エベンキ族と言語・文化の上で近い関係にあるエベン族はシベリア北東部(レナ川以東オホーツク海沿岸まで)に居住し,狩猟採集,トナカイ飼養のほか,沿岸地域では定住的な海獣狩猟に携わった。この2民族以外はロシアの極東地域(アムール川流域,沿海州,サハリン)に古くから居住してきた民族である。そのうち,ナナイ族,ウリチ族,オロチ族,ネギダール族は,アムール川の中・下流域に定住し,サケ・マス漁を主とする漁労文化を発達させてきた。また,沿海州のウデヘ族は移動生活を送りながら,森林獣の狩猟と河川での漁労を営んだ。ウイルタ族(オロッコ族)はサハリン東部で少数のトナカイを飼い,これを移動・運搬の手段として狩猟や漁労に携わってきた。以上の諸民族は言語のほかにもシラカバ樹皮でつくる円錐形天幕(チュム),舟,揺籃や前開き外套,胸当て・腰当ての組合せによる衣服,共通の氏族の名称,シャマニズムなど,共通の文化要素を長く保持してきたことが知られる。ソロン族はエベンキ族の一派であるが,言語・文化の上で隣接する満州族やモンゴル族の影響を受け,馬を飼い牧畜を営み,今日では内モンゴル(蒙古)自治区に居住する。満州族は古く中国東北部に定住し農耕に従っていたが,17世紀以降,著しく漢民族と同化した。今日では満州語を保持する民族は少数で,シボ(錫伯)族(シベ族)のような小さな集団が黒竜江省と新疆ウイグル自治区に居住するだけである。12世紀の初めに遼を滅ぼし,つづいて北宋を倒して華北を支配した女真(金)もツングース語系諸族の一つとされる。彼らは16世紀に満州人に併呑されたが,17世紀に清朝を樹立したのは,この女真の血をひくヌルハチであった。しかし現在のツングース語系諸族の生活と文化は,社会主義体制を経てそれぞれの地域で著しい変容を遂げている。     荻原 真子

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語の親族関係
ツングース語

ツングースご
Tungus languages

  

シベリア東部,サハリン島,中国東北地方および辺境地方などに分布している言語。エベン語,エベンキ語 (ソロン語) ,ネギダル語,ウデヘ語,オロチ語,ナーナイ語,オルチャ語,オロッコ語,満州語から成る。ツングース語という名称は,以上のうち満州語を除くすべての言語をさすのに用い,全体は満州=ツングース語ということもあり,最も狭義ではエベンキ語だけをさすこともある。これら広義のツングース語が共通の祖語にさかのぼることは明らかであるが,それがさらにチュルク諸語,モンゴル語とともにアルタイ語族を形成するか否かの言語学的証明は未確立である。文献の存在するのは,少量の女真語文献 (12~13世紀) を除けば,満州語のみで,それも 17世紀以降であるため,歴史的研究が遅れており,むしろ現代諸方言の比較研究にまつところが大きい。





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